守備で貢献した本田、岐路に立つ長友 ミラノダービーで見えた2人の立ち位置

片野道郎

スタジアムにもれた嘆息

トップ下で先発出場した本田だが、精彩を欠き、チャンスを作ることはできなかった 【写真:ロイター/アフロ】

「(マリオ・)バロテッリを投入した時ですが、どうして本田じゃなくて(カルロス・)バッカを下げたんですか?」

 試合終了後のテレビインタビュー、マイクの前に立ったミランのシニサ・ミハイロビッチ監督に飛んだ最初の質問がこれだった。この日、4−3−1−2のトップ下で先発出場した本田圭佑のパフォーマンスは、こんな質問が出ても誰も不思議に思わないほど、一見すると精彩に欠けるものだった。

 システムのかみ合わせ上、1対1でマッチアップすることになったインテルのアンカー、フェリペ・メロの厳しいマークに遭い、空中戦やセカンドボールをめぐる争いでは明らかな劣勢に立たされ、パスを受けても厳しい当たりでバランスを崩されてボールコントロールがぶれるなど、らしくないプレーが目立つ。トラップが決まらずに余分な2タッチ、3タッチを強いられ攻撃のリズムが崩れるたびに、サン・シーロのクルバ・スッド(南ゴール裏)からは「ああ、またか」と言わんばかりの嘆息がもれた。

 冒頭の質問に対する指揮官の答えはこうだった。

「バッカはあまり出来が良くない中の1人だった。もし彼を残して本田を下げていたら、前線がFW3人になるので、攻守のバランスが崩れる怖れがあった。リスクを冒してFW3人で戦うにはまだ早過ぎる時間帯(後半17分)だったしね。同点に追いつけたかもしれないが、2点目を喰らう可能性も高くなっただろう。本田は攻撃ではもっとできたと思うが、守備ではたくさんの汚れ仕事をこなしており、出来は悪くなかったと思っている」

指揮官があえてスタメン起用した理由

ミハイロビッチ監督が本田をあえて先発起用したのは、守備面も含めた総合的な貢献を評価しているからに違いない 【Getty Images】

 前半にミドルシュートを2本打った以外、攻撃で目立った貢献が見られなかったことは確かだ。しかし守備の局面では、インテルの最終ラインと中盤の間のスペースに入ってパスコースを制限。このゾーンに入ってパスを受けようとする敵MFに厳しいプレッシャーをかけるなど、目立たないながらも献身的な動きをコンスタントに続けて、攻守のバランス維持に大きな貢献を果たしている。インテルのビルドアップがスムーズに進まず、前線に質の高いボールがタイミング良く供給される場面がほとんど見られなかったとすれば、その功績の一端は間違いなく本田のものだ。

 背番号10を背負ってトップ下というポジションを務めている以上、攻撃の局面で違いを作り出す仕事ができなければ、マスコミやサポーターの評価を得ることは難しい。その意味でこのダービーにおける本田のプレーは「期待外れ」だったと言えるだろう。

 しかし、サッカーは攻撃と守備という2つの局面、そしてその2つの頻繁な切り替えによって成り立っているスポーツだ。その全体を最適化することを考えなければならない監督の立場に立てば、攻撃だけでなく守備の局面でも質の高い貢献を果たし攻守のバランスをもたらしてくれる本田の存在は、チーム全体の「戦術的収支」において、われわれが見ている以上に重要なのだろう。代表ウィークで日本に帰国し、ワールドカップ予選2試合にほぼフル出場した上に往復24時間・時差7時間のフライトをこなしたこともあって、フィジカルコンディションが不安視されていたにもかかわらず、指揮官があえてスタメンで起用したのも、そうした本田の総合的な貢献を高く評価しているがゆえに違いない。

レギュラー争いでは一歩リード

レギュラー争いでは一歩リード。守備だけではなく、攻撃面でも違いを作ることが求められる 【写真:ロイター/アフロ】

 本田にとっては、2014年1月にミランに移籍して以来4度目のミラノダービーにして、これが初めての先発出場。今シーズンは、フィオレンティーナとの開幕戦に続いてここまで3試合中2試合でスタメンを張っており、この日は中盤(左インサイドハーフ)に回ったジャコモ・ボナヴェントゥーラ、出番がなかったスソとのレギュラー争いで一歩リードしているという状況だ。

 このリードを確固たるものにするためには、守備面での貢献に加えて、攻撃の局面でも違いを作り出すことが必要であることは言うまでもない。昨シーズンは4−3−3の右ウイングというあまり慣れていないポジションでのプレーを強いられ、しかもジェレミ・メネス、ステファン・エル・シャーラウィ、マッティア・デストロ、アレッシオ・チェルチといった、ボールを持ったら自分ひとりで何とかしようとする良い意味でも悪い意味でもエゴイスティックなプレーヤーが前線のパートナーだった。

 しかし今シーズンは「本来のポジション」であるトップ下でプレーできるだけでなく、裏のスペースへの飛び出しを最大の武器とするバッカ、コンビネーションによる突破が持ち味のルイス・アドリアーノと、周囲のアシストや連係(とりわけ質の高いラストパス)を必要とする生粋のストライカーがパートナー。敵2ライン間でマークを外してパスを引き出し、そこから前を向いてコンビネーションやスルーパス、あるいはミドルシュートで決定的な場面を作り出すという、本田が最も得意とするプレーで勝負できる環境が整っている。このミラノダービーでは、相手のマークが厳しかったことに加え、代表ウィーク明けでコンディションが不十分だったのか、動きにキレがなく当たり負けする場面も目についた。今後その点が改善され、さらに日々のトレーニングを通してチーム全体の連係が高まってくれば、本田自身のパフォーマンスもおのずと上向きになってくるはずだ。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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