史上最強トリデンテ“MSN”の絆 ピッチ内外で築いた確固たる信頼関係

工藤拓

昨季は3人で122得点を挙げる

昨季三冠の原動力となったMSN(左からスアレス、メッシ、ネイマール)。圧倒的な破壊力で得点を量産した 【写真:ロイター/アフロ】

 昨季に6年ぶり史上2度目の三冠を獲得したバルセロナの象徴と言えば、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールが形成する3トップだろう。

 昨季を通してこの3人が積み重ねたゴール数は、スペイン史上最多記録を更新する122発に上る。その圧倒的な破壊力により、“MSN”の略称で親しまれる彼らは早くもフットボール史上最強のトリデンテと評されるまでに至った。

 中でも約4カ月の出場停止によりデビューが大幅に遅れたにもかかわらず、メッシ、ネイマールの双方とお互いを生かし合う連動性を確立したスアレスの存在は、昨季の成功をもたらした重要な鍵の1つだと言える。

 サミュエル・エトー、ティエリ・アンリ、ズラタン・イブラヒモビッチ、ボージャン・クルキッチ、ダビド・ビジャ、アレクシス・サンチェス――。バルセロナでは近年、そうそうたるストライカーたちが軒並み絶対的エースとして君臨するメッシとの共存に苦しんだ末、自身がより輝ける場を求めて他クラブへと移籍していった。

 そんな中、なぜ昨季のバルセロナはシーズン途中のデビューとなったスアレスをスムーズにチーム組み込むことに成功しただけでなく、史上最強と呼ばれるほどに3トップの連携を高めることができたのか。

 その理由を理解するためには、ピッチ内の現象だけでなく外側にも目を向ける必要がある。

距離を縮めた「マテ茶タイム」

メッシ(左)とスアレスはピッチ外でも良好な関係を築いており、家族ぐるみで付き合う仲になった 【写真:ロイター/アフロ】

 14年夏、バルセロナはメッシが懇意にしていた2人のチームメート、セスク・ファブレガスとホセ・マヌエル・ピントを放出した。さらに一昨季に獲得したネイマールの獲得オペレーションを巡る裁判が進むにつれ、クラブがさまざまな名目を付けてメッシの年俸をも上回る破格の報酬をネイマールと彼の父親に払っていたことが判明。結果としてメッシはフロントに対して強い不信感を抱くようになっていた。

 そのためジョセップ・マリア・バルトメウ会長は、昨年夏に慌てて大幅な年俸アップを含む契約更新のオファーをメッシに申し出たのだが、この時メッシはある条件を提示した。ワールドクラスのセンターFWの補強である。

 実際のところ、メッシが本当に望んでいたのは友人であるセルヒオ・アグエロの獲得だった。だがマンチェスター・シティが断固として交渉に応じなかったことで「クン(アグエロの愛称)」のバルセロナ移籍は実現不可能となり、メッシは失意とともにバルトメウに提案された他候補の獲得を渋々受け入れることになる。それがスアレスだった。

 そのような経緯に加え、加入当時のスアレスは先にも述べた出場停止の真っただ中にあった。そんな選手の獲得に8000万ユーロ(約109億円)もの移籍金を払ったバルセロナの判断は高いリスクが伴うものだったわけだが、結果的には大当たりとなる。ピッチ上で結果が出るまでには多少の時間を要したものの、彼の加入はピッチ外でもチームに、何よりメッシに大きな影響を及ぼしたからだ。

「マテ茶が自分たちを結びつけたんだ」

 後にスアレスが明かした通り、メッシとスアレスはアルゼンチンとウルグアイ共通の文化である「マテ茶タイム」を通して急速に距離を縮め、すぐに家族ぐるみで付き合う仲になった。

 共にバルセロナ近郊の町ベラマルに居を構える2人は、今では練習後の昼下がりにどちらかの家に集まり、ハビエル・マスチェラーノも交えてマテ茶を囲むことを習慣としている。仲が良いのは本人たちだけでなく、スアレスの妻ソフィアはメッシの妻アントネージャの新たな“ママ友”となり、息子のチアゴ・メッシは同い年のベンハミン・スアレスが一緒に通い始めたことで、保育園に連れて行かれるたびに泣くことがなくなったという。

 フロントへの不信を募らせ、友人との別れを悲しんでいたメッシにとって、公私にわたって理解し合える新たな友人スアレスの存在は、徐々に離れつつあった心をバルセロナに繋ぎ止めるだけでなく、再びこの町での生活に幸福を感じさせるきっかけになったのだ。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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