果たせなかったシンガポール戦のリベンジ 見えた課題は代表選手のメンタル
吉田の追加点で悪い流れを断ち切るも
後半5分に吉田が見事なミドルシュートを突き刺し、悪い流れを断ち切った 【写真:アフロ】
だが、その後はなかなか追加点が奪えない。この日は右サイドから酒井宏が再三クロスを供給していたが、「彼こそこのゲームで活躍してほしかった」と指揮官から期待されていた武藤も、「(得点できなければ)チームにとって自分はいらない存在」と語っていた岡崎も、タイミングを合わせられずに枠外シュートを重ねてゆく。それ以上に深刻だったのが、ドルトムントで復調傾向にあった香川だ。前半の2本のシュート(30分と43分)は、いずれもフリーで流し込むだけというシーンだったにもかかわらず、枠外や相手GKへのリターンとなってしまった。結局、前半の日本は12本のシュートを放ったものの、わずか1点のリードでハーフタイムを迎える。
そんな嫌な流れを断ち切ったのが、後半5分の吉田のゴール。相手ペナルティーエリア内で小気味良くパスがつながり、山口がいったんボールを下げて、前進してきた吉田の右足から放たれた低いミドルシュートがゴール左隅に収まる。「ミーティングでもミドルシュートは言われていたので、トライしてみようと思っていた」とは本人の弁。本田の先制点と同様、ペナルティーエリア内が密集した状態でのミドルシュートは、確かに有効であった。さらに後半16分には、岡崎の反転シュートがいったんは相手DFにブロックされたところを、香川が押し込んで3点目。当人にとってはアジアカップのヨルダン戦以来となる、実に8カ月ぶりの代表でのゴールであった。
ようやく一息ついた日本は、さらなるゴールを目指すべく、ベンチは攻撃のバリエーションを試すような采配を見せる。岡崎と武藤による2トップ、武藤と香川のポジションの入れ替え、そして宇佐美貴史、興梠慎三、原口元気の投入。とりわけ、積極的なドリブルからのシュートに定評のある宇佐美と原口の起用は、日本の前線にアクセントと活性化をもたらした。しかしカンボジアも、最後まで粘り強い守備で抵抗。結局、スコアは3−0のままタイムアップとなった。試合後、敗れたカンボジアの選手全員が日本のベンチの前に整列し、ハリルホジッチ監督とスタッフに恭しく合掌のあいさつ。それは、国際Aマッチではなかなかお目にかかれない、何とも初々しく清々しい光景であった。
考えたいメンタル面でのサポート
欧州で結果を出している選手たちが、W杯2次予選でプレッシャーを感じてしまうという状況は、今後の戦いに一抹(いちまつ)の不安を拭えない 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
試合後、キャプテンを筆頭にメディアの質問に応じる選手たちの表情は、一様に晴れやかなものではなかった。当然だろう。この日の日本のシュートは34本、ボール支配率は73.9%だった。シンガポール戦の23本、65.7%に比べると、はるかにゲームをコントロールし、チャンスを作っていた。にもかかわらず、奪ったゴールはわずかに3つ。ちなみにこの日、2次予選の他のグループでは、UAEがマレーシアに10−0、クウェートがミャンマーに9−0、韓国がラオスに8−0、そしてカタールがブータンに15−0で勝利している。日本とカンボジアとの力関係も、これらの対戦カードと同じくらいだったことを考えると、やはり3−0というスコアには物足りなさを覚えてしまう。
とりあえず勝ち点3を確保したことは評価したい。しかし、相変わらずチャンスを作るわりには点が取れない。それは単に、相手が引いて守りを固めたから、という理由だけで片付けられる問題であろうか。ハリルホジッチ監督は「われわれは絶対に勝たなければならなかった。他の選択肢がなかった。そのため選手は、少し慌てて正確さを欠いたのかもしれない」と弁明している。要するに、カンボジアには勝利したものの、シンガポール戦の「リベンジ」は果たせなかった、と考えるのが妥当であろう。
欧州で結果を出している選手たちが、W杯2次予選で(しかも明らかに力が劣る相手との対戦に)プレッシャーを感じてしまうという状況は、今後の予選での戦いを考えるとやはり一抹(いちまつ)の不安を拭えない。この日、決定機を二度外した香川について、「背番号10から(ドルトムントの番号の)23に変えた方が重圧から開放されるのではないか」というSNSの書き込みを見つけて思わずうなってしまった。試してみる価値はあるかもしれない──というのは冗談としても、そろそろ代表選手のメンタル面でのサポートを具体的に考える時期に来ているのではないか。そもそも昨年のW杯の直後、原博実技術委員長(当時)は「(選手の)メンタルに問題があった」と語っていたではないか。技術も経験も実績も申し分ない。にもかかわらず、なぜ肝心な場面で本来の力を発揮できないのか。すでに答えは、自明であるように思えてならない。