果たせなかったシンガポール戦のリベンジ 見えた課題は代表選手のメンタル
43年ぶりの対戦となる日本とカンボジア
青と赤のユニホームに身を包んだカンボジアのサポーターたち 【宇都宮徹壱】
カンボジアは日本にとり、W杯アジア予選やアジアカップといった国際Aマッチでは、なかなか対戦する機会のない国である。実際、日本は70年のアジア競技大会(1−0)、そして72年のムルデカ大会(4−1)の2回しか対戦していない。今回の対戦は、実に43年ぶりとなる。もっとも当時の国名は『クメール共和国』であり、75年にポル・ポトによって倒されたのちに『民主カンプチア』が成立。その後の悲劇的な独裁と内戦により、サッカーをはじめとするあらゆる国内のスポーツは停止された。カンボジアが初めてW杯予選に参加したのは、98年フランス大会以降のことである。
艱難辛苦(かんなんしんく)の歴史ゆえ、他のASEAN諸国に比べると「発展途上未満」と言ってもよいカンボジア代表。最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングは180位で、日本(58位)が所属するW杯2次予選グループEでは最もランキングが低い。それゆえであろうか、チームを率いる韓国人のイ・テフン監督は「明らかに日本の方がレベルは高いので、カンボジアの選手はこの試合から大いに学んでほしい」と、やたらと謙虚に発言していたのが印象的であった。
カンボジアは2試合を終えて、シンガポールとアフガニスタンにいずれもホームで敗れている(スコアはそれぞれ0−4、0−1)。勝ち点も得点もないまま迎えるアウェーでの日本戦、となれば「勉強させていただきます」という姿勢になるのは、ある意味当然のことと言えよう。一方、迎える日本のファンやサポーターからすれば、いささか歯ごたえに欠ける相手に感じられるかもしれない。それでも国内で行われる代表戦は、年内はこれが最後ということでチケットは完売。この日の公式入場者数は5万4716人と発表された。
ハリルホジッチの強い意思
ハリルホジッチ監督にとってこのカンボジア戦は、不覚をとったシンガポール戦の「リベンジ」であった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「私は(シンガポール戦が終わってから)今まで、現役時代でも経験したことのない状態にあった。あれから2カ月が経ったが、いろんな人から同じ質問をされたし、私自身もずっと考えてきた。なぜ、シンガポールに引き分けたのか、と」
指揮官にとって、このカンボジア戦は、不覚をとったシンガポール戦の「リベンジ」であった(余談ながら樋渡群通訳は「仕返し」と訳していたが、この場合は「リベンジ」の方がしっくりくるだろう)。カンボジアにとってはいい迷惑だが、この試合で日本が(というよりも指揮官が)目指しているのは、単なる勝利のみならず「シンガポール戦はアクシデントだったと思わせないといけない」(前日会見でのコメント)。それゆえの欧州組そろい踏みであった。
対するカンボジアは、事前の情報によれば「5バック」とのことであったが、スタメンのDF登録選手は2名のみ(MFとFWが4名ずつ)。実際の並びは5−3−2で、中盤の主導権を実質放棄してまでも、まずは守備をしっかり固めていくという基本姿勢が明確であった。そして試合が始まると、カンボジアは9番のクオン・ラボラウィーを除いた全員が自陣、それもペナルティーエリアの中を固めてきた。当然、日本はボールを保持したまま、何度となくシュートチャンスを演出する。しかし、相手のブロックやこちらのシュートミスが重なり、試合開始から20分を過ぎてもなかなか相手のゴールネットを揺さぶるには至らない。何やらシンガポール戦の再現を見ているかのような不安が脳裏をよぎる。ベンチのハリルホジッチ監督も、同じような思いだったのではないだろうか。