直前合宿の成果を見せたバレーW杯序盤戦 サーブとディフェンスの強化が実を結ぶ

田中夕子

サーブを変えた「アグレッシブ」のサイン

W杯ではサーブが効果的に決まっている。「アグレッシブ」のサインが出たら、選手たちは攻めのサーブを放つ 【坂本清】

 さらに東京ラウンドの5試合で光ったのはサーブだ。

 眞鍋監督は「相手の正面に打たず、前後左右に揺さぶってネットスレスレに打つよう指示をしている」と言うにとどめたが、大久保茂和・サーブ担当コーチから、事前にどの場所を狙うか、それぞれの選手に伝えられ、ロングサーブやショートサーブ、相手の不得手なコースやゾーンを狙う練習を重ねて来た。

 加えて、個別に後ろから、横からと位置を変えてサーブを打つ際の動画を撮り、トスの高さやボールをとらえる時の肘の位置や手首の使い方など、細かなポイントをその都度指摘。その成果が最も顕著に出ているのが、実質代表1年目の19歳ながら、攻守両面で活躍する古賀紗理那だ。

「サーブは嫌い」と苦笑いを浮かべるように、スパイクやレシーブと比べると、これまで高校やV・プレミアリーグで打ってきたサーブにはそれほど威力があったわけではない。だが、東京ラウンドの5試合では9本のサービスエースを記録するなど、好サーブを連発しているだけでなく、ミスはわずかに3本。接戦となったドミニカ共和国との試合でも古賀のサービスエースが何度も流れを引き寄せるなど、チームにとって大きな武器となった。

「サーブを打つ時に『手首が緩い』と指摘されて、打つ瞬間まで力を抜かないこと、トスを高めにして、高い打点で打つことを意識するようになったら、最近はめっちゃ入るようになって、自分でもビックリしました」

 サーブの効果を感じているのは古賀だけではない。これまでは「勝負どころでミスが多かった」と自認する大竹里歩もその1人だ。サーブを打つ際、ベンチから狙うポイントがその都度指示されるのだが、「狙わなきゃ」と慎重になりすぎて逆に力が入り、アウトになったり、ネットにかけたり、大事な場面で思い切りサーブを打つことが怖かったと言う。だが、W杯直前に加えられた新たなサインが、不安を払しょくしてくれたと言う。

「勝負どころになると『ここを狙え』ではなく『アグレッシブ』と書かれたカードが出るんです。その時はとにかく『サービスエースを狙って攻めろ』と。自分の一番良いサーブを得意なコースに打て、というサインなので、もしミスをしても『攻めた結果だから気にすることはない』と切り替えることができるようになりました。迷わず、思い切り打てるようになったことが、良い結果につながっているんだと感じます」

残り6試合はこれまで以上の総力戦

残りの6試合は米国、中国など強豪ぞろい。これまで以上の総力戦が始まる 【坂本清】

 サーブとディフェンス。W杯に向けて強化してきた成果は発揮されたとはいえ、「最大の山場」と位置づけていたロシア戦は手痛い黒星を喫した。

 それでも、ワールドGPでは不調の続いた木村が活躍し、「全部自分にトスを持ってきて、という気持ちで打った」と思えるような自信を取り戻したことは、チームにとっても大きな収穫であり、手応えになったことは間違いない。

 だがドミニカ共和国戦ではワールドGPで勝てなかった時と同様に、トスの軌道が低くなり、十分な高さがないためサイドの選手がスパイクを打ち切れなかった。そのため、相手のブロックに止められたり、抜けたコースをディグでつなげられるなど苦しい展開が続いた。

 東京ラウンドで対戦したアルゼンチン、キューバ、ケニアは格下のチームであり、良いサーブを打てばそれだけで点数につながったが、ドミニカ共和国には同じようにサーブを打ってもパスを返され、相手の攻撃もブロックに当たりながらも弾かれる場面も目立った。加えて木村が「(相手に)チャンスボールをセッターの周辺に返された」と言うように、相手の攻撃を崩していても、セッターが1本目に触るために他の選手が二段トスを上げざるを得ない状況になったり、クイックを打とうと下がりかけているミドルブロッカーにチャンスボールを返されてクイックを封じられた。それだけでなく、後衛の選手と交錯する場面もあり、結果的にサイドにブロックが集中するケースも多く見られた。

 30日からの仙台ラウンドで対戦する韓国やセルビア、そして9月4日からの名古屋ラウンドで対戦する米国、中国は東京ラウンドで対峙(たいじ)した各国をはるかに上回る力を有する国ばかりだ。サーブやディグで一定の成果を残してはいるとはいえ、コンビやブロックに加え、チャンスボールの処理やブロックからの攻撃展開など、確実に勝利を得るために、そして来夏のリオデジャネイロ五輪で頂点に立つことを最終目標とするならば、ここで改善しなければならない課題がいくつもある。

 決してたやすい道のりではない。

 だが最終合宿の成果を「間違っていなかった」と実感できたように、苦しみながらも4勝1敗で乗り切った東京ラウンドの経験も次につながる糧にして。負けられない、残りの6試合に向けて、木村が言った。

「もっともっと、良いバレーをしていきたいです」

 すべてを結集し、これまで以上の総力戦が始まる。

2/2ページ

著者プロフィール

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

新着コラム

コラム一覧を見る

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

おすすめ記事(スポーツナビDo)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント