大迫傑、予選敗退でも見せた成長の証 課題はさらなるスプリント力の向上

加藤康博

2年後、3年後を見据えて

1000メートルのラップタイムで見ると世界基準の戦いができたが、ラスト400メートルのキレとなると、まだ課題は残る 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 大迫は2014年に早稲田大を卒業後、米国のスポーツメーカー、ナイキが支援し、アルベルト・サラザール氏がヘッドコーチを務める「ナイキ・オレゴン・プロジェクト」に参加。この春からは国内の所属企業を退社し、完全に拠点を米国に移してトレーニングを積んでいる。

 そこでランニングエコノミー(走りの経済性、より少ないエネルギーで走れる能力を指す)とスプリント力の向上を図り、筋力トレーニングも計画的に導入している。その成果は7月に5000メートルでの日本記録樹立という形で現れたが、今回、高いレベルでのペース変化にも対応し、「世界と戦う」という面でも、力をつけていることを見せた。

 課題はスプリント能力のさらなる向上だろう。5000メートル、1万メートルといえど、勝負はラスト400メートルのスパート合戦で決まることがほとんどだ。大迫はハイペースで押し切る力は日本でも間違いなくトップだが、日本選手権では過去4年、このラスト勝負で敗れ、日本一の座を手にできていない。

 そのためこれまでは早めに仕掛け、ロングスパートで逃げ切る策をとることが多かった大迫だが、今年はその方針も変わってきた。6月の日本選手権5000メートルではスパート力に勝る村山紘太(旭化成)を相手に、残り1周での勝負に出ている。それは自身の成長を感じるようになったからだと、日本選手権の後に語っていた。

「自分もラストの力は上がっている手応えはあります。あとはどの筋肉をつけ、どう意識して走るかだと思うんです。今は勝てなくても少しずつ成長している手応えはあります。2年後、3年後を見据えてやっているつもりです」

 この世界選手権でも最後の最後までファイナルに向けての争いを演じた。敗れはしたが、世界との距離を文字通り肌で感じることができたに違いない。

引き続き、海外のレースで挑戦していく

予選敗退に悔しさはあったかもしれないが、引き続き海外の舞台でチャレンジしていく大迫に期待したい 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ミックスゾーンに設置されたテレビでは2組目のレースが映されていた。1組目の結果を受け、ハイペースでレースが進んでいる。タイムで決勝に拾われる選手はこの組から多く出ることは明らかだった。

 大迫はその画面を見ながら、「2組目はハイペースで進むのは仕方ないですね」と言うと、そのレースを最後まで見ることなく控室へ向かっていった。決勝に進むためにはしっかりと着順で入らなければならない。それができなかったことに悔しさを感じているようだった。

 世界と戦うために退路を断ち、米国でのトレーニングを選んだ大迫。今回はわずかのところで決勝への壁を越えることができなかった。だが彼は引き続き、海外のレースを中心に参戦する。急激なペース変化や駆け引き、そしてラスト勝負などハイレベルな争いを経験していくことでより成長していくだろう。大迫の次のチャレンジに期待したい。

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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