衝撃を残した清宮幸太郎の初甲子園 “清宮フィーバー”はまだ終わらない

楊順行

「悔しい」涙がにじんだ敗戦後

仙台育英に敗戦後、涙ぐむ早実・清宮。1年夏の甲子園はベスト4で終わった 【写真は共同】

 唇をかみしめ、グラウンドにじっと視線をやる。その目に、涙がにじむ。準決勝で仙台育英高に敗れたあと、早稲田実高・清宮幸太郎はこう、口を開いた。

「悔しくて……(仙台育英の佐藤世那選手は)すごく良いピッチャーでした。フォークとストレートの組み合わせが良かった。でも、全然打てないわけじゃなかったので、要所で抑えられたことが悔しいです」

 この日も2打席目でセンター前に抜けそうな内野安打を放ち、これで甲子園の5試合ですべて、いや、春の東京大会から数えれば公式戦14試合ですべてヒットを記録したことになる。

 甲子園通算では、19打数9安打の打率4割7分4厘で8打点。これは、1年夏の清原和博(当時PL学園高)を大きくしのぐ数字だ。しかも83年夏の桑田真澄(当時PL学園高)以来となる1年生での2ホーマーに、二塁打3本。“和製ベーブ・ルース”にふさわしい長打力も、存分に見せつけた。

すでに強さ、パワーはタツノリより上

 圧巻だったのは、東海大甲府高との3回戦。

 3回表の打席で、菊地大輝が4球目に投じたのは、チェンジアップだった。甲子園では1球も使っていない、言わば怪物封じの秘策だ。だが……清宮は、その128キロをフルスイングすると、打球は右中間スタンドに一直線。甲子園初アーチとなる勝ち越し2ランは、1年生らしからぬ周到な読みの産物だ。

「追い込んでからチェンジアップが、菊地さんの配球。だけど甲子園では使っていなかったので、今日はくるな、と思っていました。3球目に、それを打ち損じてファウル。だから、2球続けてくると読みました」

 この試合の清宮は、その後も右翼線に二塁打を2本重ね、3安打5打点。まさに怪物だ。

 東海大甲府高・村中秀人監督が嘆く。

「打ち取るにはインコースしかないのに、バッテリーがそのインコースの使い方を間違っている。しかも緩いタマなんて、そりゃ打ちますよ」

 そういえば村中監督、早稲田実高との対戦が決まり、清宮対策に話が及んだときには、こう言ったものだ。

「昔、村中という1年生がいたでしょう(笑)」

 はいはい、1975年の夏、東海大相模高の8強進出に貢献した1年生左腕ですね。

「そのときの私の同期が、やはり1年生のタツノリ(原辰徳、現・巨人監督)で、彼も1年時から素晴らしい活躍をした。だけど清宮君はリストの強さ、パワー、同じ時点のタツノリより上ですね」

 ううむ、一時代を築いた甲子園のアイドルよりも上なのか。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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