想像できなかった早実のベスト4進出 勢いは西東京5回戦のサヨナラから

楊順行

春は四死球連発で崩壊していた投手陣

2打席連続本塁打を放ち出迎えられる富田(写真中央) 【写真は共同】

「西東京大会の初戦のころからは、とても想像できませんよ。決勝でも8回まで、0対5と(東海大菅生に)リードされていたんですから。みなさんも、そうでしょう?」

 早稲田実業・和泉実監督は、ほほ笑みのなかで不思議そうに首をかしげる。僕にしてもそうだ。春の東京大会、関東一戦。清宮幸太郎の大アーチを目にしたはいいが、四死球を連発するなど投手陣が崩壊しての大敗(11対18)。これではとても、甲子園出場などおぼつかない……と思った記憶がある。

 それが、悪戦苦闘でなんとか西東京大会を勝ち抜くと、5年ぶりの甲子園では勢いに乗った。今治西(愛媛)との初戦は、松本皓、服部雅生の完封リレーに金子銀佑の先制打などで6点(最終スコア6対0)。広島新庄(広島)戦は接戦の9回、渡辺大地に勝ち越し打が出て7対6。3回戦は清宮、加藤雅樹が連続アーチをかけるなど、東海大甲府(山梨)に快勝した。

 そして、この日の準々決勝。清宮が、1年生としては、1983年夏の桑田真澄(PL学園)以来史上2人目の2本目の本塁打を放ち、さらに富田直希の2打席連続アーチなどで、強力打線の九州国際大付(福岡)を圧倒し、8得点。投げては松本が、直球の緩急と多彩な変化球を駆使して4安打1失点の完投だ。確かに、春の時点からは想像できないベスト4進出である。投手陣をリードし、主将でもある加藤は言う。

「松本は、しっかりコーナーに投げ分ければ今日ぐらいのピッチングはできるんです。打線も、切れ目がなくなってきたと思う。それと目立ってはいませんが、安定した金子の守備がずいぶん助けてくれていますね」

 ショートの金子と三遊間を組む山田淳平三塁手によると、こうだ。

「昨年の秋から春までは、守備が乱れて負けることが多かったんです。だからピッチャーの自責点はそんなにないんですよ。そのころは、僕がショートで金子がサード。でもそのあとポジションを入れ替え、断然良くなった。金子はショートがすごくうまいですしね。また西東京で、日野との苦しい試合(5回戦で終盤に逆転を許すも、9対8でサヨナラ)を勝ってから勢いに乗っています」

10点以上を目標に打ち込んだ打線

 清宮効果か、打線の充実もある。5月の練習試合では、準々決勝で対戦した九州国際大付に、清宮をはじめ4本のホームランを見舞って打ち勝った。ただ同じ遠征では、九州学院(熊本)の伊勢大夢に封じられた反省から、打線は常に10点以上を目標にして打ち込みを繰り返す。フリー打撃の5カ所のうち1カ所では、松本や服部といった主戦級と、2ストライクからの1球勝負。これで集中力を研ぎ澄ましていく。

 同校OB(2003年卒)で、この春就任した国定貴之部長は、そのプロセスをつぶさに見てきた。

「春に関東一に負けたあと、日々の練習から同じ失敗を繰り返さないようにしてきました。ピッチャーは試行錯誤を重ね、自信をつけた打線は、点を取られるのは承知の上として、劣勢でもドタバタしなくなっています。それが、西東京大会などで生きた」

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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