短距離界に現れた新星・サニブラウン 世界陸上は「出るだけで終わらせない」

折山淑美

リオ五輪出場も目標に

きつい練習になるとサボってしまうこともあると話す。ただ今まで以上に練習に取り組み、体も徐々にできてきた 【スポーツナビ】

――高校の山村貴彦監督はノビノビと練習をさせていて、きつい練習になると休むこともあると話していますが、その中で20秒7台が出るという自信をどうやって持てたのでしょうか?

 練習は少しずつ(ペースを)上げているけど、まだ追い込んでいるわけではないし、本当にきついと手を抜いたりしています(笑)。
 でも(レースでは)前半さえしっかり出られれば、後半もそのままのスピードでいけると思うので、例え最後で下がっても、ストライドで稼げるので、余程の悪条件でなければ、普通に出ると思っていました。

――昨年、日本ジュニアなどのタイトルを取って欲が出た部分もありますか?

 そうですね。冬はこれまでに比べて、けっこうサーキットとか補強も取り入れた感じで。体は昨年よりでき上がってきたかなと思います。でも、まだぜんぜん細いですけど(笑)。

――静岡で20秒73を出した時、少しだけリオデジャネイロ五輪も見えてきたと話していました。

 本当に来年のリオへ行けるのではと思ったのは、やっぱり世界ユースで20秒34を出してからですね。静岡の時はまだ、日本選手権に出ても、「戦えるまでいくのかな?」という感じでした。それが日本選手権で2位になってから、ほかの選手の調子にもよりますが、来年もタイムは上がると思うので、「いけるんじゃないかな」と思い始めました。ただ日本選手権の走り自体はあまり良くなかったし、運もあったと思いますけど。

20秒3台には本人もビックリ

世界ユースの前は、学校のテストのため練習量が足りず不安はあったという。それでも日本選手権での経験を自信に変え、見事2冠を達成した 【スポーツナビ】

――日本選手権の結果で世界ユースの優勝を意識したと言いますが、その後は練習に対する意識も変わりましたか?

 そんなにはないですね。それまでもけっこう連戦だったし、日本選手権が終わってからは学校のテストがあって、あまり練習もできなかったので。テストが終わって少し体を動かしたら直ぐに移動だったので、何かを意識して取り組むという暇もなかったし……。そこがちょっと不安でした。

――それでも100メートルも200メートルも向かい風で自己ベスト。特に200メートルは、20秒50は切るだろうと思っていましたが、20秒3台には驚きました。

 そうなんです。僕も20秒50は切れると思っていたけど、正直、20秒3台は出るかどうか、という感じだったので。出た瞬間はさすがにビックリしました。

――どこまで記録を伸ばせるんだろうという楽しみもあります。日本選手権で20秒5台を出して2位になった事で、前半から突っ込んでも大丈夫だというリミッターが切れたんでしょうね。

 そうですね。いくら突っ込んでも多分、最後は下がるけど我慢はできると思ったので。日本選手権の予選は頑張って頑張って最後も粘れたので、それで自信がつきましたね。だからユースの決勝に立った時も、日本選手権に比べればぜんぜん楽だと思ったら、緊張すらしなくなったんです。

ボルトらをしっかり観察する機会に

4×100メートルリレーは出てみたいと話すサニブラウン。日本の鍵を握るバトンパスの上達が課題だ 【写真は共同】

――これで世界選手権代表も決まり、4×100メートルリレーでもアンカーを任されそうな状況になりました。シニアの大舞台でどんな経験をしたいですか?

 個人はどちらでもいいですけど、4継(4×100メートルリレー)は出てみたいですね。4走だといろいろな大物選手がいるので、一緒に走る機会としては良いと思います。日本代表として走るプライドも意識しつつ、海外の人たちの走りに見とれながらという感じです。

――ボルトと4走を走りたい?

 予選からボルトが出てきてくれればうれしいんですけどね。もちろん日本チームも決勝へ行くのは当然のことだし、バトンがしっかり合えばと思うんですけど。
 でも自分はけっこうバトンが下手なので……。4走で受けるだけでも、スタートが遅いので問題外なんです。

――それは合宿でしっかり練習をするしかないけど、個人としてはどうですか?

 出るだけで終わらないで、しっかり得るものは得て帰りたいですね。自分の最高の走りをするのは大事ですけど、それでもまだ勝てない部分は沢山あるので、何が違うかというのを比較するにも大事だと思います。だからその辺はウォーミングアップの時からしっかり観察したりしたいです。今回はタイムとか結果より、そういう観察や経験を積む方が大事だと思っているので。

――来年のリオやその先へ向けての課題はどう考えていますか?

 やはり技術面だとスタートから加速に乗るところを完全にできれば、もっとトップスピードに乗る地点も早くなるから。その上でトップスピードをいかに落とさないで我慢できるようになればもっとタイムも出るし、いい走りもできると思います。

――そのためにもまずは200メートルの走りを完成させたいという意識も強いですか?

 それはありますね。200メートルができ上がれば、100メートルも走れるようになるので、とりあえずは200メートルという感じですね。200メートルのラストで意識的に脚を回せるようになれば、100メートルのラストでも自然に脚が回るようになると思いますから。

――200メートルを最後まで走り切れるようになれば、体もできてくる。テレビのインタビューでも、早速「9秒台は?」と質問されていたけど、今の体で9秒台を出したら壊れてしまいそうで怖いですよね。

 本当にそうですね。今のところは200メートルをしっかりやっていれば、100メートルもついてくると思っていますから。100メートルをガツガツやるのは、もう少し体ができ上がる大学生になってからでいいと思います。


 高校卒業後は、山村監督などいろいろな人たちに相談する必要はあるが、海外留学も視野に入れていると話すサニブラウン。注目度が一気に先行した形になったが、初の世界選手権では、しっかり地面に足を着けて、自分の立ち位置を探るための経験の場にしようとしている。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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