小宮山悟が語る、球児の投げ過ぎ問題「なぜベンチ入り人数に制限があるのか」

スポーツナビ
 高校野球の長い歴史の中で幾多にわたって議論されてきた球児の「投げ過ぎ」。炎天下の中、それでもチームの勝利のため、チームメートのため、そして自分のためにマウンドで投げ続ける姿は人々の心に強く訴え、感動を呼んできた。一方で、投手1人の酷使、連投による肩・肘への影響などが問題視され、日本のみならず、米国でもその是非についての記事が話題になってきた。

幾多のドラマを生む甲子園。一方で、炎天下の中での投手の酷使が毎年、議論されるなど、課題となっている 【写真は共同】

 今年、100周年を迎えた高校野球。今後、50年、100年と継続するために避けては通れない「投げ過ぎ」問題について、日米両球界で活躍した野球解説者の小宮山悟氏に話を聞いた。

投げられるのなら投げた方がいい

――今年も夏の甲子園大会が開幕しました。毎年、夏の暑さが厳しくなる中、炎天下の中でピッチャーが100球以上、時には200球近い球数を投げ続けることがあります。小宮山さんの高校時代と比べて、現在のこの状況をどう考えますか?

 決定的に言えるのは暑さが違うということですね。われわれのころは、炎天下といっても30度。それに比べれば、今は灼熱(しゃくねつ)ですね。その中で150球、200球を投げるわけですから、明らかな投球過多です。最近聞いた話では、投球過多を解消するために、普段の練習ではほとんど投球をしないそうです。週末の試合に投げて、練習で休むようですね。

――ご自身の高校時代はやはり練習でもたくさん球数を投げていたのですか?

 私の高校(芝浦工大柏高)は弱かったし、部活動の制限があったので、球数を投げるという環境ではなかったです。強豪校の練習とは足元にも及ばないようなレベルでした。

――ピッチャーの練習として、投げ込みを行うことで制球力や変化球が身に付くこともあると思います。トレーニングとしての投げ込みと投球過多のバランスをどう考えますか?

 どこを目指すのかが一番大事です。例えば「プロを目指します」と言うのであれば、プロになるためのレベルで練習をしないといけない。「とりあえず野球を楽しめればいい」なら、自分のレベルに合った練習をすればいいので、投球過多を気にする必要はありませんよね。

 何かを身に付けることは、「コツをつかむ」ことです。そのコツをつかむのにどのくらいの時間を費やすかは、人ぞれぞれのセンスによります。それが個性というものなんですよね。おそらく苦労に苦労を重ねて身に付けた人は、簡単に忘れない、体が覚えているのに対し、コツを簡単につかんだ人は、故障して時間が空くと、コツを再び呼び戻すのに時間がかかる。そこは良し悪しですね。

 私としては、故障をしてしまうのは悪ですが、投げられるのなら投げた方がいいと考えています。

――練習量は、選手の自信につながるからでしょうか?

 弱さを打ち消すものは、経験しかないわけです。では、その経験をどこで積むか、それは「人の見ていないところで俺はこれだけやったんだ」という事実しかない。それにより、見えない部分で、相手よりも優位に立ち、心の余裕を生むわけです。試合では、時にどうすることもできない場面、追い詰められた状況が訪れますが、精神的に追い詰められないようにするためには普段の努力しかないんです。

プロと高校でなぜベンチ入り人数が違う?

――「投手の投げ過ぎ」を語る上で、「1人の投手の酷使」がキーワードかと思います。

 エース1人で大会を乗り切らないとダメなようなルールだからいけないのだと思います。そもそもなぜ高校野球にベンチ入り人数に制限があるのか。連戦を行っているプロ野球やMLBでも、25人でやっていますよね(編集注:プロ野球のベンチ入りは最大25人、MLBのロースターの数も原則25人)。なぜ高校野球はその人数を試合に使っちゃいけないのでしょうか?(編集注:地方大会のベンチ入りは20人、全国大会は18人と定められている)

 私は、ベンチ入りメンバーを増やすべきだと考えています。

――過密日程を避けるという考え方もあるかと思います。炎天下を避け秋に実施したり、夏が動かせないなら、日程にゆとりをもたらすなどの方法があると思いますが。

 本来、勉強をしなきゃいけない高校生が、ただでさえ「野球しかしていない」とたたかれているのに、夏休み以外のところで、課外活動にいそしむというのが果たしていいのか、ということになると思いますよ。

 日程についても、今は準々決勝の後に1日の休養日を設けていますが、はっきり言って、ピッチャーとしてはあまり変わりません。リーグ戦ではなく、トーナメント形式でやっている以上、1日くらい空けたところで、そこにたどり着くまでに、疲弊しているわけですから、何の解決にもならないと思いますよ。

――他にもタイブレークや1試合の球数制限の導入などが議論されています。

 今のスタイルだから、甲子園はファンが熱狂するのではないでしょうか。極論から言うと、年間通してのリーグ戦形式にして、レベルの近い高校でグループ分けし地区の代表を決めて、10月か11月に頂上決戦というやり方もあります。しかし、これでは下位レベルにグループ分けされたところが本当に盛り上がるでしょうか。

 私は今のまま、都道府県の代表が日本一を競うというのが正しい姿だと思います。そのためにも、故障が際立つことがない大会運営をすべきだと思うので、ベンチ入りの人数をもっと増やすべきだろうと思いますね。

1/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント