甲子園では分かっていても確認、再確認=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(2)
昨年の甲子園で起こった悲劇
延長戦でサヨナラ勝ちし喜ぶ鹿屋中央の選手と、しゃがみ込む市和歌山・山根(手前) 【写真は共同】
記憶に新しいのは昨年(2014年)、夏の甲子園1回戦の市和歌山高(和歌山)対鹿屋中央高(鹿児島)の試合。1対1で迎えた延長12回裏1死一、三塁。守る市和歌山高はサヨナラのピンチを迎えていた。ここでベンチは伝令を送る。市和歌山高・半田真一監督からの指示はこうだった。
「三塁ランナーが走ったらバックホーム。走らなかったらゲッツーを狙う」
そして、直後の打者の当たりは二塁手・山根翔希の前へ。三塁走者はスタートしたが、二遊間での併殺も狙える当たりだった。その証拠に遊撃手の西山翔真は二塁ベース上で手を挙げて呼んでいる。ところが、捕球した山根は、一瞬ためらった後に一塁へ送球。三塁走者が生還してサヨナラ負けを喫した。
「頭が真っ白になった」(山根)
選手も観客も一瞬静まり返り、何が起こったのか分からない幕切れ。なぜ、こんなことが起こったのか。
それは、選択肢が2つあったからだ。極限の緊張感で打球の強さ、当たりによって本塁送球か、二塁送球かを判断するのは容易ではない。負けたら終わりの3年生の夏。甲子園の初戦。緊迫した延長戦のサヨナラのピンチ……。高校生が平常心でいられない条件はいくつもそろっていた。そこに、「思ったより打球がはねなくて……」(山根)というバウンド。頭が真っ白になったのも無理はない。ベンチからの指示は誤りではないが、選手の迷いをなくすためには、どちらかひとつに絞った方が良かった。
やってはいけないことを抑止する効果も
そしてもうひとつ、「確認!」をすることには意味がある。
それは、やらなくていいこと、やってはいけないことを抑止するためだ。甲子園でも毎大会複数回あるのが外野手の不容易なダイビング捕球。例えば、昨年の大会であったのは、1回戦屈指の好カードと言われた智弁学園高(奈良)対明徳義塾高(高知)の試合だった。
0対0で迎えた2回裏2死一塁。明徳義塾高・水野克哉の打球はライト前へ飛んだ。この打球に智弁学園高のライト・高岡佑一はダイビングするも届かずに後逸。タイムリー三塁打にしてしまった。これをきっかけにこの回一挙3失点。飛びこまなければ2死一、二塁または一、三塁。次打者は高知大会の打率が1割2分5厘の8番だっただけに、無失点で切り抜けられる可能性は大いにあった。
高岡は「明徳だから1点もやれないと思った」と、飛び込んだ理由を説明した。だが、まだ序盤。たとえ先制されたとしても、智弁学園高には、巨人にドラフト1位で指名された主砲・岡本和真がいた。場面、状況からも1イニングの複数失点だけを避ければ良かった。結局、智弁学園高は4対10で大敗。試合後、智弁学園高・小坂将商監督はあの守備を「痛い、痛い、痛い、痛い」と悔やんだが、後の祭りだった。
この例に代表されるように、甲子園では、大量リードをしている場面や2死無走者、一塁の場面などでも外野手が飛び込む傾向がある。ファインプレーになればいいが、後逸して長打にしてしまうとビッグイニングになる恐れが出てくる。外野手には「ダイビングして勝負する場面か、飛びこまずにシングルヒットでOKか」を必ずベンチから「確認!」しなければいけない。
「分かっているだろう」が通用しないのが高校野球。「分かっていても、確認。再確認」。これが、最悪を想定したクロカン野球なのだ。