甲子園の未来をドラゴン桜作者が提言=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(1)
純粋に「頑張ろう」と言えるのが高校野球
『クロカン』を通じて、高校野球の監督の役割を伝えたかったという三田氏 【スポーツナビ】
(黒木が最初に率いていた)桐野高校のキャプテンが「どうしたらいいか分からない」と言ったときに、「自分で考えろ。お前らのチームだろ。お前らで考えて、お前らでやらないでどうするんだ」と。高校野球というのは、自立した大人を育てるのが大きな目的。自立というのは、人から言われてやるのではなくて、自分から積極的に考えて、自分で動くこと。監督はそういう人材を社会に送り出すためのサポートでしかないんですよね。実際に監督に話を聞くと、「とにかく選手が動かない。オレの指示を待っている。言わなきゃやらない」と、こぼすわけです。口酸っぱくして、一日中、小言を言っているのが監督。でも、子供だから年がら年中言っても聞かない。だから、言い続けるしかないんですよ。
――三田先生ご自身の『クロカン』での印象的なシーンを教えてください。
東京(京陽高校)の強豪から島根の新設校(松江緑風高校)に転校した細越というキャラクターがいるんです(※注:京陽時代に鷲ノ森との練習試合に登板し、坂本と投げ合う。7回雨天コールドゲームになるも、お互い全21アウトを三振で奪う投手戦を演じる)。彼の最初の目的は坂本と決着をつけること。ずっと三振を取り続けるために甲子園に来た。ところが、試合中に雨が降ってきて、自分の思うようにいかなくなってしまった。さらに、三振にこだわるあまり、味方の他の選手とあつれきもできてしまった。そこから、最終的に周りの人たちとみんなで頑張ろうとなったんです。何か目標があって、挫折する。うまくいかない、どうしていいか分からないときに周りが支えてくれる。仲間の存在を初めて知り、それによって復活する。そういう行程が自分の中できっちり描けたと思います。
――高校野球の良さを教えてくれるシーンですよね。
純粋に「頑張ろう」と言える、そういう気持ちになれるときが、世の中に意外とない。高校野球はそれがまだ残されている最後のもの。日本の良心がかすかに残っている部分はあると思います。そういうところを大事にしていけたらいいなと思いますね。
変えない努力が今後の高校野球に必要
三田氏は「甲子園を変えずに今のままの形を守ってほしい」と訴える 【スポーツナビ】
昨春のセンバツに池田高校(徳島)が久々に出てサヨナラ勝ち(対海南高校、4対3)したんですが、そのときネット裏の一般客も手拍子をしながら、みんなで池田高校の校歌を大合唱したんですよ。「高校野球ってすごいな」と思いましたね。長いこと甲子園を観てますが、全員で大合唱したのは初めてです。世界広しと言えども、高校の校歌をみんなで歌う国なんてないですよ。そういうところに大きな価値がある。ここまでつないできた歴史、高校野球の価値をもう一回みんなでつくる必要があると思います。
――最後になりますが、今年で高校野球が始まって100年になります。次の100年に向けて、どう改革していったらいいか三田先生の考えを教えてください。
「どう変えたらいいですか?」とよく聞かれるんですが、頑張って変えないことだと思います。例えば、甲子園でもタイブレーク制度の導入が検討されていますが、わざわざルールを変えなくても、延長に入る前に5〜10分間休憩するとか、冷房のきいた部屋で休ませるとか、試合中もコーチャーに水を持たせて塁に出たら飲ませるとか、工夫できることはありますよね。もし「100球で投手は交代」というルールができれば、球数だけで交代すればいいのであって、考える必要がなくなる。打たれて負けても「エースが降りちゃったから」と言い訳になる。そうやって、「○○はダメ」というルールを作れば作るほど、現場は考えることを放棄してしまう。改革という名のルール変更は、かえって高校野球の価値を損なうと思います。
大会は1県1代表、15日間でやるという枠を最初に作ったからひとつのスタイルができた。これはひとつの完成形なんです。先人たちが作ってきたものには、いろいろなものが詰まっている。いろいろ批判はあるかもしれないが、完成形に手を突っ込んだら終わりなんです。「何かを変えろ」という人たちは、実際に夏の大会を観に来ているのかということですよね。大相撲だって、横綱が音楽を流しながら登場してきたらファンが観に行かなくなりますよ。だから高校野球も、次の100年のためにいかに変えずに守っていくか。どうやったら変えないで済むかを考えないとダメだと思います。
※野球漫画『クロカン』を元に高校野球の現実(リアル)を考える短期集中連載(全10回)を展開します! どうぞお楽しみください!
三田紀房(みた・のりふさ)プロフィール
【(C)Norifusa Mita/Cork】