ICCで分かれた本田と長友の明暗 新シーズンの動向が注目される2人の今

元川悦子

良いところなく連敗したインテル

ミラン戦で先発した出場した長友だったが、若手中心のチーム構成だったこともあり、不完全燃焼に終わった 【Getty Images】

 一方の長友だが、初戦のミラノダービーは4−3−3の左サイドバック(SB)で先発出場し、後半32分までプレーした。前半は隣に陣取ったセンターバック(CB)のポパ、縦関係に位置した左FWのバルディーニ、アンカーのニュクリが18歳、左インサイドハーフのディマルコが17歳とユース選手ばかりが周囲を取り囲む形となり、非常にやりにくかっただろう。本人も「初めてやる選手ばかりだったので連係面は正直、難しいところがありました」と語っていた。

 ロベルト・マンチーニ監督は若手の中で長友がどれだけリーダーシップを取れるかを再確認したかったのかもしれないが、この状況では彼自身としては得意の攻撃参加を見せる回数は自ずと限られる。前半は0−0で終えたものの、不完全燃焼感が色濃く残る展開だったはずだ。

 後半立ち上がりも同じ陣容だったが、約15分が経過したところでキャプテンのラノッキアやエルナネス、イカルディら主力級のメンバーが一気に登場。長友としても慣れ親しんだ選手たちとのプレーでオーバーラップする回数は増えた。後半24分、26分には立て続けに左サイドからシュートも打ちに行き、得点への強い意欲を示していた。この初戦は結果こそ出なかったが、彼は彼なりにできることを最大限やったと言える。

 だが、中1日で迎えたレアル戦はベンチスタート。この日の彼らは中盤ダイヤモンド型の4−4−2。主力組がズラリとスタメンに名を連ねる中、左SBにはCBを本職とするフアン、右SBにはバルセロナから加わったモントーヤが入った。マンチーニ監督は爆発力のあるレアル相手ということで、守れるフアンとボールを持てるモントーヤを起用したのだろう。彼らはまずまずの動きだったが、インテル自体のチーム完成度が今一つで、攻めの迫力を強くは押し出せなかった。

 結局、長友がピッチに送り出されたのは、0−2でリードされていた後半37分。それも与えられたポジションは1つ前目の左MFだった。得意のドリブル突破でチャンスメークを試みるも、流れは完全にレアルにいっていて引き戻せない。終盤にはハメスに豪快な直接FK弾を決められ万事休す。中国でのインテルは2連敗と良いところなく終わった。

「今はまだチームを作っている状態なんでね。中1日で試合があって同じメンバーではなかなかプレーもできないし、若手もたくさんいたりと難しい状況ではありますけれど、監督も『結果よりもまずは自分たちのサッカーを見つめながらやっていこう』と。結果は気にしなければいけないけれど、気にしてもしょうがないんで」とレアル戦後の長友は歯切れの悪い口ぶりだった。

移籍報道は「全然気にならない」

移籍報道も加熱するが、長友は「それほど気にしていない」と語る 【Getty Images】

 彼がそんな様子を見せるのもやむを得ないところがある。この2試合で左SBにはフアンとダンブロージオと長友、右SBにはサントンとモントーヤが使われており、SB競争は熾烈を極めている。しかも長友はSBだけでなく左MFでも起用され、直前のバイエルン・ミュンヘンとの練習試合では3ボランチの右もトライすることになった。

「前をやったり、3ボランチの右をやったりもしましたけれど、中盤の選手がどういうボールをもらいたいのかという気持ちも分かるだろうし、経験という意味では良かったんじゃないかと思います」と本人は努めて前向きに振る舞っていたが、このままインテルに残留しても「ユーティリティーな便利屋」と位置づけられる可能性は大いにあるのだ。

「チームのために戦っているという犠牲心は監督の心にも届くと。僕が逆の立場で監督をしていたら、そういう選手を使いたいなと思うし。そういうプレーができていると自分のパフォーマンスも良いってことなんじゃないかな」とインテル愛の強い彼は自分に言い聞かせるように話したが、やはり現状はかなり厳しいと言わざるを得ないだろう。

 中国遠征後には移籍先が本決まりになるという見方もある。長友自身はガラタサライやジェノアなどへの連日の移籍報道について「全然気にならないです。僕は自分が今、やるべきことに集中している。どうなるかは神のみぞ知るなんで。インテルにまだ縁があるんだったら残るし、他のチームに縁があるならそっちに行くし。何が起こるか分からないですからね。移籍市場は」と、どう転がっても受け入れる覚悟を決めているようだ。「もちろん選手である以上はフルでできる環境が一番いい」とも発言しており、そういう新天地を見いだせるなら、決断した方が本人にとってもプラスかもしれない。

 ある意味、今回の中国ラウンドで明暗が分かれた本田と長友。ただ、1カ月後の新シーズン開幕時に2人の状況がどうなっているのかはまだハッキリしない。今後の両クラブの戦力補強や移籍も含めて、彼らの動向をしっかりと見極めていくことが肝要だ。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント