女子長距離・鈴木亜由子の歩むべき道 自分で作った“枠”を打ち破るために

折山淑美

いつの間にか作っていた心の“枠”

13年のユニバシアードでは1万メートルで優勝、5000メートル2位に入っているが、タイム的には伸び悩みの時期だった 【写真:アフロスポーツ】

 しかし、大学4年だった13年7月のユニバーシアード(ロシア・カザン)で1万メートル優勝、5000メートル2位という結果は残したものの、タイム的には若干足踏みをする状態が続いた。
「監督にはロンドン五輪を目指せと言われていたけど、自分の中ではきちんとイメージが作れていなかったですね。5000メートルでは15分30秒をなかなか切れなかったので、まずはそれを実現したいと思ってやっていました。大学2年の秋にそれほど無理をしなくても15分34秒だったので、すぐに切れるかなと思っていたけど、結局は31〜32秒では走れていても、なかなか切れなかったんです。また、(13年の)モスクワ世界選手権の参加標準記録はBが15分24秒で、Aは15分18秒でしたが、そこまでも狙い切れませんでした。結局は心の中で、自分が作ってしまっていた“枠”を外せなかったというのはあると思います」

 高校時代に疲労骨折で2回手術をしていたこともあり、「3回目は避けなければ」と臆病になっていた部分もあったと振り返る。大学時代の練習はトラックやクロスカントリーだけに限定し、1万メートルに向けても8000メートルくらいまでの練習しかしなかった。

 そんな自分の心の中に作った壁を、今は打ち破る必要性も感じている。
「高橋(昌彦)監督にはよく『慎重すぎる』と言われるんです。確かに私は無謀な夢は見られないというか、ある程度力がついたという実感が沸いてこなければ、目標として口にしてはいけないというところはあると思います」
 そこは鈴木らしさでもあり、ある意味、「失敗したくない」というような、優等生意識の表れなのかもしれない。

 だが実業団2年目になった今はやっと、5000メートル14分台もしっかり意識できるようになってきた。これまでより一歩も二歩も先を見て、それを実現するためには何をしなければいけないかを考え、それに近づいていきたいと思えるようになった。
「(20年の)東京でメダルを狙えるようになりたいけど、ただ、その種目が何かはまだ分かりませんね。マラソンには適性が必要だろうけど、私にそれがあるかどうかもまだ分からないし。だからまずは、5000メートルと1万メートルでスピードを強化していきたいなと思っています。(来年の)リオデジャネイロ五輪もトラックで挑戦できれば、次(東京)は、何で狙っていけるのかが見えてくるのではないかと思います」

世界選手権は自分を変えるチャンス

初めて経験する世界選手権という大舞台で、今までの自分の?枠”を越えられることに挑戦する 【スポーツナビ】

 今の鈴木は平均ペースで押し切るレースパターンを得意にしており、ラストの切れで勝負できるタイプではないと言う。それでも中学時代まではバスケットボールもやっていて、運動神経には自信がある。だから「中学生の時のような動きができれば、最後のスパートにも反応できるのではというのはあります。けがをしたことで怖さを感じてしまい、知らず知らずにいろいろなことを制限してきたのだと思います。瞬発系の動きもそうだけど、練習でもう少し刺激を入れるようにしていけば体も反応してくると思うので、そういう感覚をどこかで呼び覚ましたいです」と話す。

「あとはスパイクをちゃんと履けるようにしたいですね。じつは去年も今年も、まだスパイクを履いていないので。でも、北京までにはちゃんと脚のコンデションを整え、スパイクを履いてレースを走りたいと思っているんです」

 こう言って明るく笑う鈴木。彼女にとって初めて経験する世界選手権は、自分の心の中にしぶとく残っている“枠”を打ち破るための大きなチャンスの舞台でもあるだろう。そのためには最低でも、自分の力を出し切るレースをしなければいけない。それさえできれば、彼女が歩むべき道も、目の前にハッキリ見えてくるに違いない。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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