赤穂が敵地タイに乗り込み世界王座挑戦=8月のボクシング見どころ

船橋真二郎

タイで日本人世界戦18敗1分の鬼門

8月7日にタイへ乗り込んでWBO世界バンタム級王座決定戦に臨む赤穂亮 【写真は共同】

 WBO世界バンタム級1位の赤穂亮(横浜光/26勝18KO1敗2分)が8月7日、敵地・タイで2度目の世界戦に臨む。同級2位のプンルアン・ソーシンユー(タイ/50勝34KO3敗)と空位のWBO世界バンタム級王座を争う。2012年大みそかに実現した世界初挑戦は当時のWBC世界スーパーフライ級王者・佐藤洋太にいいところなく敗れた。高い身体能力と強打が赤穂の売りだが、熱くなり過ぎ、ボクシングが一本調子になる悪いクセがあった。再起後は7連勝6KO。最近はいわゆる“ケンカ・ボクシング”からの脱却を図り、柔軟さと幅の広さを身に付けつつある。

 対するプンルアンは、かつてこのベルトを保持したことがある元世界王者。昨年7月には米ラスベガスで亀田和毅に左ボディ一発で沈められ、ベルト奪還に失敗している。再起戦でWBOアジア・パシフィック王座を獲得し、その後は3連続KOで防衛。和毅の王座返上で再び返り咲きのチャンスが巡ってきたことになる。好戦的な右のファイター型で、3敗はすべて海外など、経験では赤穂を上回っていると言えるが、ボクシングスタイルの噛み合い、個々の能力を考え合わせれば、赤穂優位の予想は十分に成り立つ。ポイントは戦いの舞台がタイという点になるだろう。

 さかのぼること1963年1月、ファイティング原田が世界フライ級王座の初防衛に失敗して以来、日本人ボクサーのタイでの世界戦の戦績は過去19戦し、18敗1分という鬼門中の鬼門。13年5月には赤穂を退けた佐藤洋太が8回TKO負けで王座を失ってもいる。敵地で平常どおりに戦うことの難しさは、たとえば今年6月、英ブリストルでIBF世界バンタム級暫定王座決定戦に臨んだ予想有利の岩佐亮佑(セレス)が6回TKOで敗れたことでも、あらためて実感された。そして、当初からバンコク市内とされていた試合地が直前になって、バンコクから車で約1時間強のラチャブリ県に変更となり、早速、タイの洗礼を浴びたのである。

決定力を備える強打は最高の武器

2012年大みそかには佐藤洋太の持つWBC世界スーパーフライ級王座に挑戦した赤穂だったが、判定負け。2度目の世界王座挑戦で悲願達成なるか!? 【写真:アフロスポーツ】

 だからこそ、今年3月、フィリピン・マニラで初の海外試合を経験しているのは大きい。日本とは異なる環境下での減量を含めたコンディションづくりの難しさを体感しながら、赤穂は4回KO勝ちでWBOインターナショナル王座を獲得した。日本人がタイで勝つのは難しいとはいっても、不可能というわけではない。10年5月には久高寛之(仲里)が当時28戦全勝のWBC1位・パノムルンレック・ガイヤーンハーダオジムに8回TKO勝ち、13年8月には現東洋太平洋フライ級王者の江藤光喜(白井・具志堅)が最終回にダウンを奪っての判定勝ちで、WBA1位(暫定王者)を降している。判定では勝てないと、倒すことにこだわり過ぎて、自分のボクシングを見失うのがいちばん怖い。だが、ダウンを含めて明白な差を示すことが不可欠なのは、この2人の例からもわかる。となると、決定力を備える赤穂の強打は最高の武器となろう。

 以前、赤穂がこんなことを話していたことがある。
「古い考えかもしれないけど、俺の中では街で手がつけられない不良がリングで暴れるのがボクシングの根本。だから、俺にとってはボクシングというより“拳闘”。そういう部分も残したほうが面白いと思う」
 現在、日本人の世界王者は合計9人。そのうち、内山高志(ワタナベ)、山中慎介(帝拳)、三浦隆司(帝拳)、井岡一翔(井岡)、井上尚弥(大橋)、田中恒成(畑中)と、6人までが高校、大学などのアマチュア経験者。赤穂のようなプロの叩き上げが主流ではないのが現状だ。
「アマチュアが悪いとは言わないけど、(ボクシングの人気を高めるためには)俺みたいなのも必要」
 鬼門のタイから初めてベルトを持ち帰ることができれば、また違った魅力を備えた世界王者が誕生する。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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