大谷翔平の進化を示す数々のデータ 勝つために導き出した最善の方法論

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被本塁打はわずか1

前半戦で10勝を挙げている大谷。その進化を示す数字の一つが中軸打者に対する対戦打率だ 【写真は共同】

 中軸以外でも明確な点がある。今季の打順別の被打率ではワーストが9番打者で2割5分。昨季は1番打者に3割2分8厘と苦手にしていた。リードオフマンの出塁を許せば機動力を絡められることも含め、失点の可能性が高まる。逆に適切ではない表現かもしれないが、9番打者にはある程度、過度な警戒を解き、対処しているとも言える。それが各球団の中軸に対する被打率の推移から如実に、大谷の投球に対する意識の変化が読み取れるだろう。また、昨季は1試合平均7回に満たなかったイニング数が、今季は平均7回以上をマークしている。いかに、限られた球数の中で、可能な限りマウンドを守ることへの答えを、完全にとまではいかないが、見つけつつある。

 列挙してきた成績を裏付けるのが、被本塁打の数だ。7月2日のオリックス戦(札幌ドーム)でT−岡田に浴びただけで、今季は両リーグの規定投球回数到達者の中では最少の1本を献上したのみだ。シンプルに考察すれば、本塁打を打てる能力を持つ打者は、打線の中で中軸に配置されることが常だ。昨季は年間で計7被本塁打だったが、そのうちの5本がクリーンアップに許したものだった。今季は、相手打線の心臓部を牛耳っていることが、白星も含めて、すべての面で向上している成績の最大の根拠と言えるだろう。

「三振へのこだわりはなし」

 得点圏での被打率は昨季は1割6分8厘で、今季は現時点で1割7分5厘。ほんのわずかの差ではあるが、ピンチでは昨季以上に危うさを見せているにもかかわらず「勝てる投手」としてステージを上げている。中軸への驚異的な対応力の高さに、ピッチングのノウハウを知り、そのクオリティーが飛躍的な上昇をしたと言える。昨季までは最速160キロ以上を投げる剛腕で、それはそれで素晴らしかった。だが今季は、思考の転換もあったのだろうが、そこに投手として洗練されてきた一面がエッセンスとして加わった。

 ここで興味深い、大谷の今季の自己分析のコメントがある。

「三振を取るタイプの投手。相手打者は、三振するのは嫌なので早いカウントで勝負をしてくる、という感じはあります。三振へのこだわりは特にないですけれど、要所で取れればというときはあります」

 自分自身を知り、相手の心を含めた動きを読み取っている証明である。野球は強者が絶対ではなく、時に弱者にも勝利の女神が振り向く。よく「流れ」のスポーツとも言う。元来高かったパフォーマンスを最大限にマウンドから投下し、チームへと還元し、課せられた使命である白星を挙げることへの確率を高めている。あくまで推察ではあるが、数字が物語る。大谷が、そのための最善の方法論をきっと導き出したのだろう。

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