史上初のユニバ金も悔し涙を流した背景 「世界で勝つ」に挑んだ大学侍Jの3年

高木遊

金メダル決定の瞬間は悔し泣き

ユニバーシアード野球競技初の金メダルを獲得した侍ジャパン大学代表。その背景には、善波監督(中央)をはじめとした大学球界の周到な準備があった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 2013年に就任した善波達也監督(明治大)率いる野球日本代表「侍ジャパン」大学代表の集大成を見せるはずの試合は、思わぬ形で幕を下ろされた。

 12日、韓国・光州で行われていた学生アスリートの祭典「第28回ユニバーシアード競技大会」の野球競技・決勝戦は、激しい雨によるグラウンドコンディション不良で中止に終わり、決勝に進んだ日本と台湾の両チームに金メダルが授与されるという、異例の決定が下された。

 選手たちは降り続く雨の中でも試合の決行を信じ、いつ試合が始まってもいいようにと、アップを続けていた。だが、試合開始予定の午後7時から2時間が経過した9時過ぎ、無情の決定がベンチに伝えられると、全員が肩を落とし、3年間コーチとしてチームを支えた横井人輝コーチ(東海大監督)は口を真一文字にして男泣き。ベンチでは、気丈に振る舞っていた善波監督と、主将の坂本誠志郎(明治大)もミックスゾーンに現れると、目に光るものがあり、「決勝を戦いたかった」という無念の思いが痛いほど伝わってきた。

 しかし、過去2大会のユニバーシアードや、過去5回行われた世界大学野球選手権でも届かなかった金メダルを獲得したという快挙も生まれた瞬間でもあった。史上初の世界一と無念の涙の背景には、3年にわたる周到な準備があった。

一貫した選手選考で結束力と軸を形成

決勝の中止が告げられたベンチでは、「決勝を戦いたかった」という無念の思いに包まれた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 善波監督が就任以後、言い続けてきたのが「どんな状況でもチームのために全力を尽くす選手、日本代表の責任感と誇りを戦える選手を選ぶ」という方針だ。この3年間で、時にはドラフトの上位候補や赤丸急上昇中の選手を外し、疑問の声がプロ野球球団スカウトなどから出ることもあったが、オールスターチームではなく、あくまで「チームの強さ」に重点を置いた。今回のメンバーも昨年12月、今年3月、そして大会直前の6月と3回の合宿を経て、意識の徹底や結束力を強化してきた。

 そして、その監督の意向をくみ取り、チームを束ねたのが3年連続の代表選出となった主将兼正捕手の坂本だ。明治大の監督としても、坂本を間近で見てきた善波監督は「目配り、気配りができる。面と向かって話さなくても、首脳陣の会話を傍らで聞いていて、それをチームに自然と伝えてくれたりすることもありました」と、その広い視野をかねてから高評価しており、「横井コーチとは、以前からユニバーシアードの主将にしようと話していましたし、投手の選考で彼に意見を求めたこともありました」と明かした。

 また、今回全試合で4番を任された吉田正尚(青山学院大)も3年連続の代表選出だ。パワフルな打撃は下級生時から評価が高かったが、代表合宿や遠征などで他の選手に刺激を受け、守備や走塁の意識と技術も格段に向上し、チームになくてはならない存在となった。
 チームの軸となるべき選手を早くからピックアップし、多くの経験を積ませたことが、躍進の原動力となったことは間違いないだろう。

1/2ページ

著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント