田中の上質な投球が決断させた114球 前向きな言葉に感じる“大黒柱”の期待

杉浦大介

スタンディング・オベーションで迎えた8回

今季最多114球を投げて5勝目を挙げた田中。強力アスレチックス打線を2安打に抑える好投を見せた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 7回を投げ終えた時点で、すでに今季最多の100球――。複数のケガの影響もあって、ヤンキース首脳陣はここまで田中将大を慎重に起用している印象があった。それだけに、7月9日(日本時間10日、以下は現地時間)のアスレチックス戦でも、この7回終了時で降板かと思ったファン、関係者は多かっただろう。

 しかし、ヤンキースが4対2とリードした接戦のゲームで、田中は8回もマウンドに立つ。今季最長イニングとなったこの回も2アウトを奪った26歳の右腕は、最後は盛大なスタンディング・オベーションを浴びてマウンドを降りた。

「ああいう歓声をもらえるのはうれしいです」

 試合後に本人も素直にそう振り返ったが、実際にこの日の投球内容は、ヤンキースファンを喜ばせるに十分だった。
 ア・リーグ4位のチーム打率を誇るアスレチックス打線を7回2/3で2安打、2失点(自責点1)に封じ、6対2での勝利に貢献して5勝目を挙げた。最終的に114球を投げたが、四球は1つのみ。2回に捕手の打撃妨害から始まって少々不運な2点を奪われたものの、以降は4回に振り逃げのランナーを許しただけで、ほぼ完璧な投球を続けていった。

「アグレッシブに変化球でもストライクを取っていけましたし、カウントで優位に立つことができたので、ピッチングに余裕があったのかなと思います」

 田中のそんな言葉通り、特に下位打線に対しては、主にスライダーで簡単に追い込んでいく。それができたがゆえに、決め球としてすでにメジャーに知れ渡ったスプリッターもこの試合では特に効果的だった。

素晴らしいタイミングでの“100球突破”

 チームにとって何より大きかったのは、登板過多気味だったデリン・ベタンセス、前日に復帰したばかりのアンドルー・ミラーというブルペン2枚看板を休ませたかったゲームで、田中が長いイニングを投げてくれたことである。

「今日はほとんどのイニングで球数を少なめに抑えてくれた。特に7回は(球数が)少なかったので、そのまま快適に続投させることができた」

 試合後にそう説明したジョー・ジラルディ監督は、来週にオールスターブレイクが挟まり、登板間隔が空くことを考慮した上での続投だったことも指摘している。ただ、そのすべては投球内容が上質だからこそ実現できたこと。明日から上り調子のレッドソックスとの3連戦開始前に、大事なリリーフ投手を消耗させずに済んだという意味で、田中の“今季初の100球突破”は素晴らしいタイミングで成し遂げられたと言って良い。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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