日米の選手が見せた努力を分かち合う姿 連覇ならずもなでしこが示したW杯の価値

江橋よしのり

痛かった5点目

後半に2−4と追い上げた直後に失った5点目が痛かった 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 ハーフタイムの様子を、宇津木瑠美が振り返る。

「失点は流れの中で崩されてというわけじゃなかったので、ハーフタイムもポジティブに話し合いができていました。良い形で攻めることもできたし、みんな、後半に3点取るんだという気持ちを持っていました」

 すると後半7分、やや距離のある宮間のFKに、バックヘッドで澤が反応。澤と競ったジュリー・ジョンストンが頭に当ててオウンゴールとなり、2−4と詰め寄った。「もしかしたら」という期待が掛けられたが、2分後にまたもセットプレーの流れから追加点を与えて点差が3点に開いた。

「この5点目が一番痛かったです」と宮間。「ビッグチャンスがいくつもありましたし、逆に相手のチャンスの方が少なかったと思います。正直、2点目も3点目も『あ、やばいかな』と思う程度で、まだ取り返せると考えていました」

 優勝を確信した米国は、終盤に35歳のアビー・ワンバック、40歳のクリスティ・ランポーンを投入し、彼女たちにとって最後となるW杯で花を持たせた。試合終了残り1分、米国のベンチでは監督、コーチ、控え選手が肩を組み、99年以来となるW杯奪還の瞬間を待っていた。その時、スタンドのあちこちから「U・S・A」コールが沸き上がり、その声は次第に大きく、そして一つになっていった。

奪い合うから分かち合う世の中へ

花道を作ってなでしこたちを祝福する米国の選手たち。互いの努力を「分かち合う」シーンを何度も見せた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 試合が終わると、澤は盟友ワンバックの元に駆け寄り、2人はハグをして健闘をたたえ合った。4年前には澤が、そして今回はワンバックが勝ち、ともに一度ずつ優勝を体験してW杯を退くこととなった。表彰式では、準優勝メダルを授与されるなでしこジャパンをステージに迎える手前で、米国の選手たちが2列に並んで花道を作り、ライバルを祝福した。

 W杯は国家間の代理戦争だと、かつて誰かが言った。勝者はすべてを手に入れ、敗者はおとしめられる。その価値観におけるスポーツとは、何かを「奪い合う」ために存在するもののようだ。しかし11年ドイツW杯、12年ロンドン五輪、そして15年カナダW杯と、2大大会で3度続けて頂点を争った日米両国の女性アスリートたちは、戦いの先にお互いの努力を「分かち合う」シーンを何度も見せてくれた。またこの大会を通じて、女性アスリート同士は共感し、寄り添い、リスペクトしている姿を見せた。

 奪い合う世の中から、分かち合う世の中へ。国際スポーツが果たすべき大きな使命に「相互理解」「世界平和」があるならば、女子W杯はその価値を広めるにふさわしい大会だ。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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