なでしこが“あえて”選んだシビアな戦略
劣勢の中で見せた「勝つための知性」

自ら捨てていた試合の主導権

日本は終了間際の相手オウンゴールで勝ち越し。2大会連続となる決勝進出を果たした
日本は終了間際の相手オウンゴールで勝ち越し。2大会連続となる決勝進出を果たした【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「気持ちの強いほうが勝つ」と、宮間あやはいつもまっすぐ前を向いて言う。その言葉が単なる精神論ではないと、この試合でよく分かった。


 FIFA女子ワールドカップ(W杯)カナダ2015の準決勝、なでしこジャパン対イングランドの試合は、前半お互いにPKを獲得して1−1で折り返し、後半アディショナルタイムにイングランドのDFラウラ・バセットのオウンゴールで決着がついた。勝者の表情にはまるで梅雨の晴れ間のような明るみが射し、敗者の心は灰色の雲で覆われた。


 まさかの結末でW杯2大会連続決勝進出を果たしたなでしこジャパンは、この試合の早い段階で、ある重要な決断を下していた。彼女たちは、試合の主導権をあえて捨てるという大勝負に出たのだ。


 イングランドは右サイド8番(ジル・スコット)のヘディングを起点に攻めようとしている。そのことは試合開始直後から明らかだった。マークするのは、ポジション的に左サイドバック(SB)である鮫島彩の役目だったが、そこで競り負けるとゴール前中央が危険にさらされる。パワー勝負を仕掛ける相手に対し、先に失点すればなでしこの勝ち目は遠のく。


「だから前半の途中で、割り切ったんです。8番に入るボールには(宇津木)瑠美と自分で対応し、DF4人は背後をカバーするように切り替えました」


 宮間のその決断が、勝敗を分ける重要なポイントになった。


 いい流れで試合を運べていたここ2試合よりも、選手全体を後ろに下げる戦い方。当然、大儀見優季と大野忍のFW2人は、相手ボールを前線から追い込むこともできなくなる。普段のなでしこの問題解決策が、問題を遠ざけることに重きを置くものだとすれば、この日は問題に飛び込み、真っ向から立ち向かう道を選んだ。ロングキックで来るなら来い。1人で足りなければ2人で、2人で足りなければ3人で、力を合わせて、すべて跳ね返してみせるから。

ピンチに耐え、ワンチャンスの訪れを待つ

勝敗を分けたのは、宮間(右)が下した「試合の主導権を捨てる」という決断だった
勝敗を分けたのは、宮間(右)が下した「試合の主導権を捨てる」という決断だった【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 一方のイングランドは、こだわりを貫いた。DFの有吉佐織は、相手の執拗(しつよう)な攻撃に晒されながら、こんなことを考えていた。


「私たちが引いた後も、イングランドは同じパターンで攻めて来ました。引いた後、逆に中盤でパスをつながれるほうが、私たちは嫌だったと思います」


 連続するピンチも、パターンが分かっているだけに、なでしこはなんとか持ちこたえることができた。もしイングランドが攻撃スタイルを柔軟に変化させていたら。たとえば、日本人のようにテクニックと判断力で勝負するMFジョーダン・ノブスを投入されていたら。勝負の行方は違っていたかもしれない。


 33分に宮間がPKを決め、なでしこが先制するも、7分後にはイングランドもPKで追いつく。1−1でゲームは後半に入った。


 時間が進むと、イングランドの選手も足をつるなど、疲れが見えてきた。なでしこも中盤は間延びしたが、逆にスペースを使ったパスが通るようになった。なでしこに勝機が訪れるとすれば、相手の足が止まった終盤、岩渕真奈の投入で流れを変えること。そして、疲れた時間帯でも精度が落ちない「技術のスタミナ」でワンチャンスの訪れを待つこと。そして、それらは本当にやってきた。

江橋よしのり
江橋よしのり

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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