なでしこが“あえて”選んだシビアな戦略 劣勢の中で見せた「勝つための知性」
呼び込んだチャンスを生かして決勝ゴール
右サイドに走り込んだ川澄の低く速いクロスから決勝ゴールが生まれた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
川澄がボールを受けると、相手SB(クレア・ファラティ)が下がっていった。もし食いついてこられていたら、川澄は1人で前に仕掛けるのでなく、周りを使うプレーを選択しただろう。同時に中央では大儀見と岩渕が、ゴール前めがけて全力で地面を蹴っていた。
「中に2人(大儀見と岩渕が)いたので、絶対にクロスを上げよう!」。そう決めた川澄が速いボールを折り返す。浮き球ではなく、大儀見の走り込む先に合わせた低いボールだ。大儀見が触る前にいち早く、DFバセットは必死で足を伸ばした。だが渾身のクリアは、クロスバーに当たってインゴールにたたきつけられた。
涙を抑えることのできないバセット
オウンゴールを献上したバセット(右)。試合後、失意のあまり健闘をたたえ合う輪の中に入れなかった 【Getty Images】
戦いを終えて、両チームは互いに健闘をたたえ合った。だがバセットは、その輪に加わることができなかった。ベンチで頭からタオルをかぶり、涙を抑えることのできない彼女に、ノブスが優しく寄り添う。彼女の心に雨が降るならば、せめて私が傘になる。ノブスは肩を差し出し、バセットを一足早く悲しみから遠ざけるために、ロッカールームへと向かい始めた。そこにFIFAの女性スタッフ2人が歩み寄り、短い言葉をかける。4人の女性は並んで歩き、ゲートの向こうに消えていった。
試合後の記者会見を取材し、メディアルームでいくつかの原稿を書き終えると、現地は夜の11時を回っていた。日の入りが遅いこの季節のエドモントンの空も、すっかり暮れていた。ふと顔を上げると、この日、7月1日のカナダ建国記念日を祝う花火が、遠くに打ち上げられていた。