ラグビー日本代表・藤田慶和の挑戦 「花園の怪物」から世界のトップへ

斉藤健仁

日本代表の「選考試合」でアピール

6月の紅白戦で攻守に奮闘した藤田慶和 【斉藤健仁】

 高校時代のキレが戻ってきたかのような豪快なラン。「まるで中距離選手のよう」と指揮官に言われた姿は、そこになかった。

 6月、9月にワールドカップ(W杯)を控え宮崎で24日間にわたる合宿を敢行した日本代表。「選考試合」の一つとなった紅白戦を2度行ったが、2トライを挙げるなどアピールに成功したのは、スコッド(日本代表候補)の中で下から2番目に若いWTB(ウイング)藤田慶和(早稲田大4年)だった。

 6月29日、ラグビー日本代表を率いるエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が、7〜8月にかけて北米で4試合を戦う「パシフィック・ネーションズカップ(PNC)」に向けて39名の第3次候補を発表したが、当然、その中にも同じく大学生の福岡堅樹(筑波大4年)とともに藤田の名前はあった。

東福岡高時代は負け知らずの「怪物」

2014年のカナダ代表戦ではトライを奪うも、右肩を脱臼した 【斉藤健仁】

 藤田は中学時代から京都では名が知れた存在で、高校は親元を離れて福岡の強豪、東福岡に進学。日本のチーム相手には負け知らずの公式戦79連勝(1引き分けを含む)を達成し、花園でも3連覇に貢献した「怪物」だった。高校時代には7人制日本代表としてもワールドシリーズに参戦し、早稲田大入学後すぐの2012年5月に日本代表としてテストマッチに出場し、6トライを挙げて18歳7カ月の「最年少キャップホルダー」にもなった。

 だが、藤田のキャンパスライフは、高校時代と違い、順風満帆ではなく、ケガとの戦いでもあった。上記の代表戦直後には左膝靱帯断裂の大ケガを負ってしまい、復帰するまでほぼ半年ほどかかってしまった。2013年こそウェールズ代表からもトライを奪取するなどやや復調したが、2014年の6月のカナダ代表戦ではトライ時に右肩を脱臼してしまう。

 実は、この藤田のトライがなければカナダ代表に負けていた可能性も高く、もし勝っていなければ日本代表の公式戦11連勝および過去最高の世界ランキング9位(現在13位)も実現しなかったかもしれない……。そういった意味では名誉の負傷だった。だが、今年のワールドカップ出場を考慮し、藤田は帰国後再び脱臼しないようにすぐに手術し、またも半年ほどリハビリの日々が続いてしまった。

相手を抜く力が際立っている長身WTB

香港代表戦ではジョーンズHCから「本当に良くて、エネルギッシュでした」と称賛された 【斉藤健仁】

 そして昨年12月に復帰したものの、早稲田大での試合を年内に終えた藤田は、ワールドカップイヤーを迎えた2015年、7人制日本代表のワールドシリーズからスタートした。

 184センチの身長があり、手足も長くスペース感覚と相手を抜く力に長けた藤田の個性は際立っている。また、ジョーンズHCから、スピードをもっと上げてほしいという願いもあって15人制と7人制の“二刀流”を続けている。2〜3月にかけては、藤田が憧れるスーパーラグビーのクルセイダーズ(ニュージーランド)の下部チームへの留学も経験した。

 そんな中迎えた今シーズンの初戦となった4月のアウェイの韓国戦、チームの調子自体も良くなかったが、10カ月ぶりの日本代表戦となった、藤田のプレーも決して褒められるものではなかった。特にボールキャリアとして相手のディフェンスにすぐに捕まってしまってチャンスをつぶしていた。「ボールを持っていないときの動きは悪くなかったが、持っているときの動きが良くなかった」(藤田)

 5月、続く2戦目の香港戦は控えに甘んじてしまう。正念場だった。「しょうがないですけど、少し悔しかった。プレーでアピールできればと思っていました」という藤田は、途中出場ながら攻守に渡って走り回り、見違えるようなプレーを見せる。「毎回リザーブからのスタートの方がいいのかな? 本当に良くて、エネルギッシュでした」と珍しく、ジョーンズHCも手放しで褒めたほどだった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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