なでしこが高める「多様性の中の統一」 女子W杯の残り2試合に向けた大きな希望

江橋よしのり

試合ごとに高まる成熟度

中盤でオーストラリアのパスの出所をつぶす攻守を見せていた宇津木 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 オーストラリアは、それでも快足アタッカー陣にチャンスを託したが、中盤で攻守が切り替わる場面では、宇津木瑠美のコンタクトの強さと機動力に阻まれた。宇津木の、相手トップ下の選手を背後に感じながら、パスの出所をつぶす守備は、いわば欧州の間合い。さらに味方が数的優位を作れない場面では、攻撃でも守備でも、宇津木がサイドに寄って助けに入った。「ボランチの横への機動力も日本の強み」と、この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた宇津木の表情は涼しげだ。

 宇津木の他にも、大儀見優季、熊谷紗希など、これまでの日本女子のスケールを超えた選手が複数いて、彼女たちが周りと同じプレーを選択するばかりでなく、それぞれの特有な持ち味を出し惜しみなく発揮するのも、今大会のなでしこの特徴だろう。佐々木則夫監督が大会前に語っていたテーマの一つは「多様性の中の統一」。その成熟度は試合ごとに高まっているように感じられる。

 なでしこは攻撃面で、チャンスを作りながらも中を崩すことに苦労した。後半には大野忍のヘディング、宮間あやのヒールなど立て続けに決定機を作るが、シュートはわずかに枠をそれる。85分には川澄奈穂美のクロスに大儀見が飛び込むも、やはり枠の外。それでも佐々木監督は「なでしこは、繰り返し繰り返し、根気よくプレーできる」と、あきらめずにトライする姿勢を讃えた。

大きな希望となる岩渕のW杯初得点

なでしこジャパンの切り札である岩渕がゴールを挙げたことは、残る2試合に向けた大きな希望となった 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 延長戦突入も頭をかすめた87分、均衡を破ったのは「試合を決めるような活躍をしたい」と前日に決意を語った岩渕真奈だ。

 岩渕は今大会、けがが完治しないまま代表に選出された。決勝トーナメントで強豪を相手にした時、必ず戦力になると佐々木監督は期待を掛けた。大会初戦で安藤梢が負傷離脱し、FWの人数は岩渕と合わせて2枚減った状態でグループリーグを乗り越えなくてはならなかった。それでも、監督は岩渕に無理をさせなかった。「試合に出たい」とはやる岩渕の気持ちを落ち着かせつつ、練習の最後にコーチ陣を集めて、監督自ら岩渕のリハビリに付き合ったこともある。

「今日の1点で、あと2試合を戦えることになりました。自分としても次につながる得点になったと思います」と、岩渕は胸を張る。切り札によるW杯初得点は、残る2試合に向かうチームにとって大きな希望だ。

 準決勝の相手は、開催国カナダを2−1で破ったイングランドに決まった。なでしこが前回大会で唯一敗北を喫した相手だ。ファイナルへ進む前に、実に倒しがいのある相手ではないか。

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著者プロフィール

江橋よしのり

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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