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大事故を乗り越えてつかんだ初V
女子円盤投げの新女王・坂口亜弓

交通事故で競技人生の危機に直面

日本選手権の女子円盤投げで初優勝を果たした坂口亜弓。実は昨年8月に競技人生の危機に直面していた
日本選手権の女子円盤投げで初優勝を果たした坂口亜弓。実は昨年8月に競技人生の危機に直面していた【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「記録自体は去年、おととしぐらいからずっと(日本)ランキングで1番。でも、日本選手権だけはどうしても勝てなくて……。だから、素直にうれしいです」


 陸上の日本選手権(26日開幕、新潟・デンカビッグスワンスタジアム)の女子円盤投げで53メートル58を投げ、初の頂点に立った坂口亜弓(S.T.T.)は、うるんだ瞳で、しかしながら満面の笑みでそう語った。筑波大大学院1年次の2012年に自己ベストとなる54メートル22を投げて以来、日本のトップを走り続けて、ようやくつかんだ初の栄冠。喜びもひとしおだった。


 しかし、この優勝が特別な理由はもう1つある。昨年8月、坂口は競技人生の危機に直面していたのだ。彼女と、夫でありコーチの将太さんが、近所のお祭りに行こうと歩いていた時、横断歩道で自動車に横から追突された。坂口の体はボンネットの上に乗り上がった後に落下、コンクリートの地面に頭を強く打ち付けた。「(事故)直後はけいれんして、頭から血がドボドボ出ていた」というほどの大事故。坂口はその後1カ月間、寝たまままったく動けず、将太さんも肩を脱臼する大けがを負った。


「(昨年)8月の間は競技どころじゃなくて、寝返りを打つだけで吐き気がするような状態だったので、そもそも日常生活に戻れるのかと思っていました」。明るい性格だからだろう、坂口は当時のことを笑って振り返るが、復帰までは長い道のりだった。9月頭までは検査を受けながら療養をし、10月からジョグや散歩などの軽い運動を開始。円盤を投げ始めたのは、事故から3カ月後の11月に入ってからだった。

「競技を楽しく、続けていくことが大事」

練習がつめていない中でもシーズンベストをマーク。試合を「楽しめました!」と晴れやかな表情を作った
練習がつめていない中でもシーズンベストをマーク。試合を「楽しめました!」と晴れやかな表情を作った【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 そして迎えた今季。4月に兵庫県で行われた記録会で約9カ月ぶりに試合に復帰した。競技人生が危ぶまれるほどのアクシデントを経て、坂口の競技に対する考え方は変化していた。


「年齢的にも、(競技を)やれる期間というのは限られていると思うので。続けようと思えばずっとやれるのですが、いつどんなことでやれなくなるのかは分からないので、とりあえず楽しもうとは思います。前までは『勝ちたい、勝ちたい』と思い過ぎていた部分があるので、とりあえず競技を楽しく、細々とでも続けていくことが大事なのかなと思いました」


 翌5月の関西実業団選手権では51メートル20で優勝。そして、調子を戻しつつある中で今大会の初優勝をつかんだ。まだ満足な練習はつめていないが、それでもシーズンベストをマークし、「(今回)久しぶりに53メートルまで持ってこれたので、記録的にもすごくうれしいです」と納得の表情。記者に「今日の試合は楽しめましたか?」と尋ねられると「楽しめました!」と晴れやかな表情で即答した。

厳しい道でも世界を目指す

世界陸上の標準記録へはまだまだ遠いが「やはり世界を目指すということでやっていきたい」と話す
世界陸上の標準記録へはまだまだ遠いが「やはり世界を目指すということでやっていきたい」と話す【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 とはいえ、世界の舞台はまだ遠い。8月の世界選手権(中国・北京)の日本代表選考に向けて、日本陸上競技連盟が設定した参加標準記録は61メートル00と、今回の優勝記録とは8メートル近い差がある。さらに、世界に目を向ければ60メートル超えは当たり前で、今季世界ランキング1位は70メートル65。同じ土俵に立てるレベルではないのが現状だ。それでも、坂口は自分の可能性を信じている。


「まず日本記録(58メートル62)を目指していきたい。女子円盤投げで世界選手権に出るのは難しいのですが、やはり世界を目指すということでやっていきたいです」


 そう意気込んだ坂口の表情は、競技ができる喜びに満ちあふれていた。


(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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