ステージ優勝を果たした浦和の慎重細心 本当の真価を見せつける舞台はまだ先に

島崎英純

ACLを捨ててリーグに専心

ペトロヴィッチ監督はACLを捨ててまで、リーグ優勝に重きを置いた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 それではなぜ、ACLの舞台でその神通力が働かなかったのか。それは浦和の指揮官がJリーグとACLとで施した選手起用に示されている。『チーム構築の過程』、『所属選手総戦力』と銘打ちターンオーバー制を持ち込みながら、ペトロヴィッチ監督はJリーグを重視し、ACLをそれに次するタイトルと捉えていた。そうでなければACL決勝トーナメント進出が懸かる重要なグループリーグ第4節・北京国安戦で最重要選手の阿部をベンチに控えさせたりしない。

 ペトロヴィッチ監督はこれまでも過去のヤマザキナビスコカップ、天皇杯といったカップ戦でターンオーバーを施して試合に臨み、タイトルを逸してきた。すべては国内最高峰のタイトルであるJリーグを制するためだ。しかし、その策謀は今まで実を結ぶことなく、ペトロヴィッチ監督はサンフレッチェ広島を率いた2006シーズンから今まで、日本でタイトルを獲得したことがなかった(J2優勝、ゼロックススーパーカップは獲得している)。

 しかし今季は、ACLを志半ばで撤退する犠牲を払ってまでもリーグに専心する意欲をあらわにしている。そして、少しの研鑽(けんさん)期間を経て、現在の浦和はほぼベストメンバーの陣容が整った。それが今回ステージ優勝を決めた第16節・ヴィッセル神戸戦(1−1)の以下のメンバーである。

 GK西川周作、DFは3バックで左から槙野智章、那須大亮、森脇良太、左右のウイングバックに宇賀神友弥、関根貴大、ボランチに阿部と柏木、2シャドーに武藤、梅崎、1トップに興梠。

 特筆すべきは武藤の台頭だ。厳密に評価すると、今季獲得した新加入選手の中でレギュラーポジションをつかんだのは武藤ひとりしかいない。しかし武藤の加入によって浦和の攻撃バリエーションは格段にベースアップした。彼が備える前への推進力あるドリブルは攻撃を活性化させる原動力になるし、彼が実践する周囲との連係によって他の選手の個性も十全に生きる。武藤と連係連動を果たす左サイドの宇賀神は流通経済大学時代の先輩後輩の間柄で、これに左ストッパーの槙野が絡んで強固な組織を築き上げている。

 その槙野だが、今季は守備面の能力向上が著しい。1対1の局面で屈強さと俊敏さを併せ持ち、対戦相手のFWを徹底封殺する所作は頼もしい。今季の槙野はオーバーラップの回数が減っているが、それは確信的な振る舞いでもある。「今季は守備で自分の力を示したい。それがチームの結果につながると信じていますから」。その意識はヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表に選出され、ワールドカップ・ロシア大会出場を目指して戦うアジア2次予選で先発出場を果たす成果へと結びついている。

チームに影響力を与える若き才能

関根という若き才能が成長を遂げたことにより、浦和の右サイドは飛躍的にパワーアップした 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 そして、今季の浦和が最もパワーアップしたポジションは右サイドだ。浦和ユース出身のプロ2年目、関根が右サイドアタッカーのレギュラーを奪取し、そのたぐいまれな能力を誇示して相手を蹂躙(じゅうりん)している。元々攻撃力に才を備えるアタッカーは今季、チームコンセプトを順守してサイド局面で攻守に渡る関与を及ぼしている。

「先発して90分フル出場するためには何が必要か。今季は初めからそれを念頭においてプレーしてきたつもりです。攻撃、守備の両方でチームに貢献したい。常に試合に出続ける。それが今季の僕の目標です」

 それでもやはり、関根が最も輝くシーンは相手陣内ゴール前付近にある。第12節・FC東京戦(4−1)で宇賀神の左クロスを大外のファーサイドからたたいたボレーシュート、第13節・鹿島アントラーズ戦(2−1)で森脇のスルーパスを受けて一瞬のフェイクで相手DFに踏鞴(たたら)を踏ませて打ち込んだ決勝ゴールと、今季の彼は勝負所でスーパーなプレーが目立つ。チームもその若き才能の勢いに呼応して躍動感あるアタックを発動する。関根がチームに与える影響力はすでに甚大なものになりつつある。

 柏木陽介がトップ下から一段下がったボランチのポジションで一貫してプレーするのも昨季とは異なる変化だ。浦和の攻撃は後方からの巧みなビルドアップから始まる。これまではその舵取りを担うのがリベロの那須とダブルボランチの阿部、そして鈴木啓太の役目だった。しかし今季は那須、阿部とともに足元のテクニックに優れる柏木が加わったことでビルドアップ精度が格段に増した。また柏木は前線トライアングルとの距離を縮めて攻撃に関与する意欲が高く、それによって前線とバックラインを連結させてチーム全体のコンパクトネスを維持する副次的要素も生んでいる。

 そして1トップはこれまで興梠と李がその役目を担ってきたが、今季は大宮から獲得したズラタンがそれに加わり、選手層が増した。興梠が昨季終盤に負った腓(ひ)骨骨折のリハビリで出遅れ、負傷が癒えた後も鼻骨を痛めたり首痛を抱えるなどの負傷が多発して万全の状態を保てない中、新加入のズラタンが興梠の代役を務めて穴を埋めたのが大きかった。しかもズラタンは興梠とは異なる個性でチーム戦術を昇華させる一翼を担っている。今季の浦和はサイドからのクロスをゴールにつなげる確率がリーグトップのデータとなって表れている(クロスからのゴールが34得点中9得点で27.9パーセント)が、それは空中戦に秀で、サイドからのクロスをゴールに結びつける能力に長けるズラタンの存在が作用している。これまでの浦和は体格に優れるフィジカル型FWが不在だったが、ズラタンの加入によってそれが解消され、新たな攻撃パターンの構築が成された。そして興梠とズラタンを1トップで併用することによって特定個人に依存しない戦略を採れるようになり、安定した成績を残す動機付けを得た。

ステージ優勝は通過点、狙うは年間王者

ステージ優勝に満足はしていない。本当の真価を見せつける舞台はまだ先にある 【写真:アフロスポーツ】

 このように、今季の浦和は各ポジションのプレーパフォーマンスが確実にベースアップし、チーム力を高めた。しかし、浦和が目指す最終目標はステージ優勝ではなく、あくまでも年間優勝である。

 ステージ優勝を決めた第16節の神戸戦は梅崎のゴールで先制しながら、後半に宇賀神がこの日2枚目の警告を受けて退場処分となり数的不利な状況にさらされた。そして84分に渡邉千真のゴールで同点に追いつかれ、あわや逆転を許すピンチを何度も迎えたがそれをしのぎ、ドローでゲームを終えてステージ優勝を成し遂げた。神戸戦は高い集中力、窮地での辛抱、試合を戦い抜く体力を示した、今季の浦和を象徴するようなゲーム内容だったと言えよう。キャプテンの阿部はこう語っている。

「我慢するところ、去年もその我慢が大事だと思っていましたけれども、今年はより攻撃でも守備でも我慢するところは我慢する。試合の中でそれができていると思いますし、それが結果にも表れていると思っています。ただ、まだ1stステージは最終節のアルビレックス新潟戦が残っている。そこをホームでしっかり勝って終わりたいと思います。1stステージのタイトルを獲ったからといって、結局今の僕たちはまだ、何も得ていない。ステージ優勝はあくまでも通過点で、僕たちの最終目標は年間優勝です。ここまでも16試合戦ってきて、簡単な試合はなかった。さらに努力して、2ndステージもこの状態が続くようにさらに努力していかなければならない。良い状態から崩れるのは一瞬なので。今後もどれだけ高いレベルで戦えるかが求められていると思う。今日だけはしっかり喜びますけれども、明日からは次のステージ、そしてチャンピオンシップに目を向けたいと思います」

 ペトロヴィッチ監督が率いるチームはこれまで、数々のタイトルマッチで敗北を喫し、栄冠を逸してきた。当人たちは周囲から勝負弱さ、ひ弱さを指摘されていることを知っている。浦和は、これまで味わってきた数々の屈辱をまだ晴らしていない。指揮官が話す。

「チームは第1節から今日まで、常にベターに戦いたいと思っていた。勝った試合の中にも必ず反省材料があり、その課題を乗り越えてきた。その積み重ねが16節の間安定し、攻撃的なサッカーを貫けた要因だ。また、われわれには過去の経験がある。2013年、2014年の苦い経験から学び、それを生かしている。チームとして常に意識しているのは相手ではなく自らだ。常にどう戦うかを念頭に置いてトレーニングをしてきた。それが今、われわれが16節負けなしでいられる要因だと思う」

 打破すべきは己自身だ。浦和が本当の真価を見せつける舞台は、まだ先にある。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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