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「人生最後の賭け」となる今治での挑戦
岡田武史オーナーインタビュー<後編>
オーナーになってからの半年を振り返る岡田オーナー。すでに今治に生活拠点を作った
オーナーになってからの半年を振り返る岡田オーナー。すでに今治に生活拠点を作った【宇都宮徹壱】

 前回に引き続き、FC今治の岡田武史オーナーのインタビューをお届けする。前編(6月10日掲載)では、四国リーグ前半戦の総括や岡田メソッドの進捗、さらには日本代表監督時代の思い出など、主にサッカーに寄った話題について語っていただいた。後半では、クラブ経営についてフォーカスすることにしたい。


 これまで私は、地域リーグからJリーグ参入を目指すクラブを数多く取材してきた。「スポーツで地域を元気にする」「地元の誇りとなるような存在に」「●●年までにはJ1へ」──そんな大きな夢やビジョンを描くクラブ社長やGM(ゼネラルマネジャー)にも何人も出会ってきた。しかしFC今治と岡田オーナーが目指すものは、単なる地域貢献だけにとどまらない。いち地域の枠を越えて、この国のスポーツ、ビジネス、さらには教育にも領域を広げようとしているのである。


 インタビューの後半では、オーナーになってからの半年間を振り返りつつ、FC今治を通しての地域創生、新たなビジネスモデルの構築、さらには教育と人材育成といったフィールドについても語っていただいた。

「ワクワクしながらやっている」

試合後、ファンと握手する岡田オーナー。市民の間にも少しずつ意識の変化が見られる
試合後、ファンと握手する岡田オーナー。市民の間にも少しずつ意識の変化が見られる【宇都宮徹壱】

――岡田さんがFC今治のオーナーに就任されて半年が経過しました。ずっとお忙しい状況が続いていると思うのですが、いかがでしょうか?


 僕には夢があるから、ワクワクしながらやっているけれど、大変は大変だよ。4月は東京とこっちを6往復したからね。今日も午前中は(トップチームの)練習を見て、選手と話をして、午後は講演会が2本あって、取材を2本受けて、夜はアドバイザリーボードのメンバーとの食事会があって。


――会食も仕事ですからね。


 会食はメインの仕事ですよ。ほぼ毎日入るから、家ではほとんど食事をしていない。今年のスポンサーさんは確保できたけれど、来年もやっていただかないとスタッフの給料が払えないし、持株会をどうするか決めなければならないし。(手帳を見せながら)やらなければならないリストがこれだけある。


――すでにこちらに生活の拠点を移されたそうですが、住み心地はいかがでしょうか?


 最高だよ(笑)。ものすごい大きな家に、吉武(博文=メソッド事業本部長)と渡辺隆正(U−15監督)と一緒に住んでいるんだけれど、面白いよ。こっちでも外食が多いけれど、たまに漁師もどきのサッカー仲間の人が釣りたての魚をさばいてくれたりするんだ。この間も10人くらい集めて、タコ飯を作ってくれましたね。


――なんだか夏休みの合宿みたいで楽しそうですね(笑)。岡田さんはもともと今治にある企業の役員をされていて、定期的にこの地を訪れていたということですが、実際に住んでみていろいろと発見もあったのではないでしょうか?


 まあ正直、今まではそんなに詳しく知らなかったよね。僕らのように外から来る者にとっては、海があって山があって自然が豊かという印象なんだけれど、実際に住んでいる人はそれほど思い入れはないみたいで、実際にどんどん人口が減っているという現実がある。「どうにもならないんだよね」っていう諦めみたいなものも、すごく感じていたんだけど……。

行政は新スタジアム建設に前向き?

――でも、FC今治のプロジェクトが立ち上がってから、変わり始めてきたと。


 今ようやく、「そうじゃないんだ」とか「ひょっとしたら何かができるんじゃないか」って思う人がちょっとだけ出だしてきた。もちろん、まだまだ消極的な人も多いけどね。今治は造船で有名なんだけれど、この間もある造船会社の方とお話をしていたら「ウチは赤字でもうからないんですよ」と言っていたんです。でも実際にはかなりの経常利益を出しているので、それを言ったら「いやいや、あれは円安によるものだから一時的なんですよ」みたいな感じで予防線を張られて(苦笑)。そういう人たちの心を、いかに解きほぐしていけばいいか、ということを今はいろいろ考えているところです。


――今治の行政に関してはいかがでしょうか?


 市長や役所の人たちも、最初は「この人は何を言っているんだろう」って感じだったけれど、今はかなりのめり込んできていますね。この間も(愛媛)県のしかるべき立場の方から「新しいスタジアムを作りましょう! 合併特例債が5年延期になっていて、それを使うと国からも補助が出ますよ」って教えてくれて。


――今治でのスタジアム構想については、私も耳にしたことがあります。最初は愛媛FCの新スタジアムに、という話だったんですけれど、今治でのホームゲームにクラブ側が難色を示したことと、建設費や維持費がネックとなって、それ以上は話が進展しなかったそうですね。


 あまり詳しいことは言えないんだけれど、(今治の)新都市開発の一環としてもともと5000人くらいの陸上競技場を作ろうという案があって、それを2万人規模のサッカー専用スタジアムにしてはどうだろうという意見も、実際にはあるんです。


――今治市の人口は16万5000人くらい。そこに2万人規模の専用スタジアムができたら、これは日本では非常に画期的な話ですよね。


 欧州なんかでは、そういう話はいっぱいありますよ。ドイツのホッフェンハイムのホームタウン(ジンスハイム)なんか、人口が3万5000人くらいですからね。もう少し広いエリア(ライン=ネッカー郡)くらいになって、やっと50万人くらい。ジュビロがある磐田市だって16万5000人だから、ちょうど今治と同じくらい。


――ジュビロは浜松にもサポーターがたくさんいますね。


 いずれにしてもコンパクトな街にスタジアムがあるというのは、逆にひとつにまとまりやすいんじゃないかなって僕は思う。合併特例債のこともあるし、うまくすれば意外と早くスタジアムができるかもしれないですね。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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