優しさに触れ、“無駄の大切さ”を知る=ル・マンの風 現地レポート最終回

田口浩次

真っ赤なブレーキローターに情緒が……

真っ赤に焼けたブレーキローター。ファン心理としてはこれもレースの魅力なのだが…… 【田口浩次】

 感銘と同時に、気になった部分もある。今後、ル・マンだけでなくモータースポーツ全体に影響する話題だ。まずは例年上がっていく完走率の高さ。特に今年はトップチームのトヨタ、ポルシェ、アウディが全車ほぼノートラブルで完走した。アウディはガードレールが壊れるほどのクラッシュに遭いながらも、数分のピットインでレース復帰を果たすなど、とにかく完走させる力はLMP2クラス含めて高い。これは悪いことではないのだが、アクシデントが少ないことは時に物足りなく映る。

 また、エネルギー回生という将来を見据えた技術が発展することと、レースのエンターテインメントの両立が、今後の課題として見えた気がする。筆者とツイッターのフォロワーとのやり取りで、深夜走行するLMP1マシンの写真をアップしたところ、ハイブリッド車では日産だけがブレーキローターを真っ赤にしていた。一方で、トヨタ、ポルシェ、アウディの3社はブレーキからのエネルギー回生が進化して、ブレーキローターは撮影しても黒いまま。技術的には日産の方が遅れている証拠なのだが、ファン心理としては、真っ赤になったブレーキローターであったり、次々とリタイアしていくマシンの方がレース情緒があるかと……。

 それはまさに“無駄の大切さ”ではないだろうか。昔のレースは、ブレーキローターだけでなく、エキゾーストパイプも真っ赤になり、加速ごとにテールパイプから炎が見えた。だが、それらは現代の技術ではほぼなくなりつつある。そうした無駄をなくさなければレースには勝てないからだ。しかし、古来から芸術や人々を魅了するものは、無駄な部分から生まれたと言っていいい。着心地や実用性を重視すればデザインが魅力な服など必要ないし、絵や音楽といった芸術もパトロンなくして発展はなかった。

効率化とエンターテインメントのバランス

効率化がすべてではない。モータースポーツの発展にはエンターテインメントとのバランスが求められる 【写真提供:トヨタ】

 モータースポーツもそう。レースは確かに技術の進化を求める場だが、それと同時に、単純に参加者自身がレースを楽しむという無駄、命を懸けるというリスクを負っていたからこその魅力があった。そうした魅力の中に、真っ赤なブレーキローターやサバイバルがあったことは間違いない。ファンからすれば、今後もリタイアが少なく、大きなドラマもないままレースが進むようになれば、きっと退屈だと言うだろう。

 効率化とエンターテインメント――。そのバランスこそ、今後のモータースポーツの魅力の継続と発展において、重要になってくる。

 最後は硬い話題となってしまったが、ひとつハッキリと言えるのは冒頭に書いた、“百聞は一見にしかず”ということ。1週間も休みを取ることは至難の業かもしれないが、機会があれば、ぜひル・マン24時間レースを体験してほしい。最高に楽しいから。そしていつか、こうした楽しみ方を日本のレースでも満喫したい。

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