錦織も担当、日本人ストリンガーの矜持ー=全仏OPテニス・シーンの裏側

内田暁

グランドスラムで約30年にわたり活躍

日本人ストリンガーの梼木徹さん。グランドスラムで30年以上にわたり活躍し、裏方として選手を支えてきた 【内田暁】

 ストリンガー――それは、ラケットにストリング(ガット)を張る職人のこと。テニスとは、ストリングを張った面でボールを打つ競技なのだから、ここがテニスの心臓部だとも言える。

 このストリングを、どれくらの強さ(テンション)で張るのか、素材は何を使うのか? そして試合前に、何本ほど張るのか……それらの傾向は選手により千差万別。グランドスラムに集う何百という選手たちの、あらゆる要望に応えるのが彼らストリンガーの役目なのだ。

 全仏オープンの会場には、16名ほどのプロフェッショナルから構成される、オフィシャルストリンガーチームが待機している。そしてその中に、グランドスラムで約30年にわたり活躍する、梼木徹(ゆすきとおる)さんという日本人がいる。

 大会中のストリンガーの日々とは、どのようなものなのか? そして、彼らのプロとしての矜持とは? 梼木さんにお伺いした。

自国の選手を担当するのが暗黙の了解

――グランドスラム期間中、最も忙しいのはいつごろでしょうか?

 本戦が始まる直前ですね。そのころは、1日に400本以上の張り出しの依頼があります。ストリンガー1人当たり、平均30本くらいは張ることになります。

――選手は、1試合に備えて何本くらい張り出しの依頼を出すのですか?

 選手によって、これはかなり個人差があるので一概には言えません。ただ選手はみんな、基本的にはフルセットを戦うことを想定してラケットを用意します。ニューボール(試合開始直後の7ゲーム、以降は9ゲームごとにボールを新しい物と交換する)のたびにラケットを交換する選手が多いので、そうすると、男子では5セットを想定し6〜7本用意する選手が多いでしょうか。

 ただ、1試合最大3セットしかやらない女子でも、8本くらい用意してコートに入る選手もいます。(マリア・)シャラポワや、(ビーナス、セリーナ・)ウィリアムズ姉妹などがそうです。試合中に何が起きても、安心できるだけの本数を用意したいのでしょうね。

――ストリンガーによって、担当の選手はいますか?

 なんとなく、自国の選手のラケットを担当するような、暗黙の了解はありますね。例えば(ラファエル・)ナダルのラケットは、スペイン人のストリンガーが担当します。彼は、デビスカップのスペインチームに帯同しているストリンガーでもあるので、信頼もある。ナダルのコーチで伯父のトニーさんも、張り出しのラケットを持ってきて彼に頼んでいます。時々時間があると、ナダル本人が依頼に来ることもありますよ。

――では梼木さんの場合は、日本人選手を張ることが多いのでしょうか?

 日本人以外の選手ももちろん張りますが、奈良くるみさん、土居美咲さん、錦織圭さん、クルム伊達公子さんたちは、僕の担当という感じになっています。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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