ツォンガを支えた地元紙とファンの声援 2年前の反省生かし「錦織優勢」を覆す

内田暁

ツォンガを挑戦者の立場に置いた理由

地元の声援を受けベスト4進出を決めたツォンガ 【Getty Images】

 2日朝のフランスのスポーツ紙『レキップ』の紙面は、1面から3面に至るまで、全仏オープン準々決勝、錦織圭(日清食品)とジョー・ウィルフリード・ツォンガ(フランス)戦のプレビューに費やされていた。「ザ・ラスト・スライド」と題されたその特集は、意外なまでに「錦織優勢」の論調に彩られている。紙面には、元世界1位で3度の全仏優勝を誇るマッツ・ビランデル氏による“錦織攻略法”コラムが掲載され、錦織の強さをつづる記事には、映画『プラダを着た悪魔』をもじった『忍者を着た悪魔』の見出しが躍った。

 この強い錦織に、われらがジョー(ツォンガの愛称)はいかに立ち向かうのか――。

 それが特集の趣旨である。

 現時点での世界ランキングを見れば、錦織は5位でツォンガは15位。そのような意味では、確かにツォンガは挑戦者かもしれない。しかし過去の実績で見れば、ツォンガは全豪オープン準優勝、グランドスラムベスト4も4回経験している。ランキングの下降も、ケガによる不調や4カ月の欠場期間の影響があった。

 それでもあえて、ツォンガを挑戦者の立場に置いたこれら『レキップ』の記事は、地元の英雄を全面的にサポートしたいとの強き願いの裏返しでもあり、過去の“失敗”の悔恨にも根ざしていた。2年前の全仏オープン、準々決勝でツォンガが第2シードのロジャー・フェデラー(スイス)を破った時、フランスメディアは、これで決勝進出は決まったかのような雰囲気をつくり上げてしまった。それが会場に足を運んだ観客に伝播し、どこか弛緩した空気を醸成する。ツォンガは準決勝、それまでの勢いが嘘のようにミスを重ね、ダビド・フェレール(スペイン)の前にあっさりと敗れた。

 その時の反省が、『レキップ』にもあったのだろう。そしてファンも、恐らくは同じ轍を踏むまいと気合いが入っていた。いつも出足はのんびりしているフランスの観客が、この日は錦織対ツォンガ戦の開始に合わせて続々とセンターコート“フィリップシャトリエ”に足を運び、選手入場の時点から、ツォンガに熱くも温かい声援を送った。

アクシデントで冷静さを取り戻した錦織

 スタジアムを吹き抜ける強風で、ポールの国旗は引きちぎれんばかりにたなびき、コート上の赤土を巻き上げ選手の視界をさえぎる。無理に攻めずに、バックのスライスも効果的に使いながら風に適応したツォンガに対し、錦織は「最初は、ほぼ風にやられてしまって……。『早く決めないと』と思い焦ってしまった」。

 本人は否定したが、アウエーのセンターコートで戦う緊張もあったろうか。動かぬ足をほぐすかのように小刻みに飛び跳ね、足を前後に振る姿が何度も見られた。最初の自分のサービスゲームでは、彼らしくないフォアのミスを3本重ねるなど、相手の緩いペースに得意の早い攻めが食い込まない。このゲームをブレークされると、そこからは坂道を転がり落ちるように、次々とポイントを失っていった。

 錦織が「自分を見失っていた」なか、試合はツォンガが第1セットを6−1で奪い、第2セットも5−2と大きくリードする。しかしこの場面で、スタジアムのスコアボード周辺に設置された鳥よけの金属板が、強風にあおられ落下するアクシデントが発生する。その処置のために試合が30分以上も中断され、そうして戻ってきたとき、錦織は冷静さと自分のゲームプランを取り戻していた。

 明らかに、足がよく動いている。すばやくボールの落下点に入り、体を引き絞るように構えて腕を振り抜くと、快音を響かせ、鋭い打球がコート深くに次々と刺さった。第2セットは落としたが、第3セットは、ツォンガのセカンドサーブを完璧なタイミングでたたき、リターンウイナーでセットを奪取。第4セットも、ドロップショットやボレーも織り交ぜる変幻自在のテニスで奪い返し、ついに試合を五分に戻した。

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著者プロフィール

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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