厳選かつ公平に――運命のドロー決定方法=全仏OPテニス・シーンの裏側

内田暁

前年優勝者の「くじ」でドローが決定

今大会のドローは、前回覇者のシャラポワ(左)とナダル(右)が担当し、その様子はメディアにも公開された 【Getty Images】

“ドロー”――これはトーナメント形式の大会で、優勝までの道筋を示した対戦表のことである。

“draw”には「くじ引き」の意味もあり、現にトーナメント・ドロー表を決める時も、正にくじ引きのようにしてどの選手がどこに入るかを決めていくのだ。

 現在開催されている全仏オープンで、その「くじ」を引いたのは、男女の前年優勝者であるラファエル・ナダル(スペイン)とマリア・シャワポワ(ロシア)だ。ナダルが女子のドローを、そしてシャラポワが男子のドローを担当し、その様子はトーナメント・ディレクター立ち会いのもと、メディアにも公開された。

32人のシード選手の位置が決まる

32人のシード選手の振り分けを最初に決めていくことになるが、ある程度の配置は決まっている 【Getty Images】

 とはいえ、男女各128人の選手全員の配置を、ひとつずつくじ引き式で決めていくわけではない。グランドスラムでは32人の“シード選手”がおり、そのシード以外の選手たちはあらかじめ、コンピューターによりランダムにドロー表に振り分けられる。その上でナダルとシャラポワが“くじ”を引き、32人のシード選手がどこに入るかを決めていくのだ。

 シード選手およびその順位は、基本は大会前週発表のランキングで決められる。またドロー表のどこにシード選手が入るかも、上位選手が序盤でつぶし合うことがないように、あらかじめかなり限定されている。

 今大会の男子を例に取ると、1〜8シードは以下の通り。なお、本来ならミロシュ・ラオニッチ(カナダ)が第6シードに入るはずであったが、ケガで欠場したため7位以下の選手たちが繰り上がった。

1:ノバク・ジョコビッチ(セルビア)
2:ロジャー・フェデラー(スイス)
3:アンディ・マリー(英国)
4:トマシュ・ベルディヒ(チェコ)
5:錦織圭(日清食品)
6:ラファエル・ナダル
7:ダビド・フェレール(スペイン)
8:スタン・ワウリンカ(スイス)

 このうち第1シードと第2シードは、それぞれドローの正反対に配置される。つまり決勝に行くまで、この2人は対戦しない。なおドロー表のうち、第1シードを含む64選手で構成される上半分を“トップハーフ”、第2シードを含む下半分を“ボトムハーフ”と呼ぶ。

 第3および第4シードは、トップハーフとボトムハーフに振り分けられ、なおかつ、第1シード及び第2シードとは別の山に入る。だから準決勝までは、上位4選手たちが直接対決することはない。

 同様の方式で5〜8シードの選手たちも、ドローを4分割した山に重複しないよう、ランダムに振り分けられる。以下9〜12シード、13〜16シード、17〜24シード、そして25〜32シードが各々定められたポジションのどこかに、くじによりランダムに配置されていくのだ。

シャラポワが引き当てたのは……

 今回男子のドローが特に混戦模様を極めた理由は、前年優勝者にして、過去10年間で実に9回全仏を制している“赤土の王者”ナダルが、第6シードに落ちたことにあった。
 これは第1〜4シードのいずれかが、準々決勝の時点でナダルと当たることを意味する。ナダルがドローのどこに入るのか……その運命は、シャラポワの手にゆだねられていたのだ。

 果たしてシャラポワがナダルの名を引いたのは、第1シードのジョコビッチの山。その瞬間、ドローミーティングの様子を伝えるテレビカメラは、ナダルの表情を大写しで捕らえていた。そして実際、3日の準々決勝でジョコビッチ対ナダルが実現することになった。

 かくしてドローは、厳選かつ公平に……しかし時には運命のいたずらとも思える波乱とドラマを演出しながら、選手たちの種々の想いを編み込み、あみだくじのように組まれていく。

 そのドローをたどり、勝利を示す太線を頂点まで引けるのは、2週間で7つの白星を連ねた、わずか1人のみである。
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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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