朝食で験担ぎも 選手のオフの過ごし方=全仏OPテニス・シーンの裏側

内田暁

試合のない日は練習に当てる

試合以外の時間を、選手はどのように過ごしているのだろうか 【写真:アフロ】

 グランドラムは、2週間の長丁場。シングルスの試合は基本的に隔日(2日間空く場合もある)なので、試合のない日も多い。そのような日を、選手たちはいかに過ごしているのだろうか?

 基本的には、ほとんどの選手が練習をしているのが現実だ。練習は試合と同じ会場で行う場合が多いが、大会序盤の試合数が多い時期には、会場外で練習をするケースも多い。
 例えば錦織圭(日清食品)の場合は、今回の全仏オープンでは1回戦のあと、2回戦まで2日空いた。その間は会場外で、体力の回復を最優先し軽い練習のみ行ったという。
 
 練習や試合以外の時間帯は、なるべくリラックスして過ごしたいというのが選手の心理。全仏オープンには家族同伴の選手も多く、ロジャー・フェデラー(スイス)は4人の子供及び妻との時間を楽しんでいる。さらにフェデラーは、自他共に認める“大のテニスファン”。プレーヤーズラウンジやホテルで、男女問わず他選手の試合にも目を向ける。2回戦後には「良い試合を見たいから、錦織の試合を見た」とも認めていた。

毎日同じカフェで朝食を取る選手も

験を担ぐ選手も多い。チリッチは毎日同じカフェで朝食を取り、勝ち続けている間はひげもそらない 【写真:ロイター/アフロ】

 大会中の行動といえば、縁起を担ぐ選手も多い。特に朝食は、必ず同じ場所で食べるようにしている選手も珍しくない。錦織と同じIMGアカデミーの大先輩でもあるトミー・ハース(ドイツ)は、大会中はいつも同じレストランで朝食を取るのみならず、同じ席でないと嫌がったという。

 昨年の全米オープン決勝で錦織を破ったマリン・チリッチ(クロアチア)も、やはり毎日同じカフェで朝食を取り、ついでに言うなら、勝っている間はひげもそらなかった。ちなみにそのようなジンクスは、チリッチのコーチであるゴラン・イバニセビッチ自身が、2001年にウィンブルドンで優勝したとき、守り続けたものだったという。

 7年前に20歳にして全仏を制したアナ・イバノビッチ(セルビア)は、かつては「試合の無い日でも、楽しむと悪いことをしている気になった」と言う。だから会場とホテルとの往復がほとんどで、街中に出ることもめったにない。大会中の楽しみは「数独と読書」。食事も、毎日のように同じレストランで食べていたという。しかし2年ほど前から「それでは、息詰まってむしろ良くない」と考えをあらため、最近ではいろんなレストランに行くことなどで、息抜きを楽しんでいるという。

錦織は美味なフレンチより日本食?

イバノビッチをはじめ、日本食ファンのテニスプレーヤーは多い 【写真:ロイター/アフロ】

 そんなイバノビッチは日本食ファンで、中でもすしは大の好物。だが彼女の気がかりは、しょうゆに含まれているグルテン(小麦、大麦、ライ麦などから生成されるタンパク質)。そう、イバノビッチも、ノバック・ジョコビッチ(セルビア)の体質改善で有名になった“グルテン・フリー・ダイエット”の実践者なのである。しかしそこはさすが欧米。最近では、グルテン・フリーのしょうゆが用意されているすし屋も多いそうだ。

 このイバノビッチに限らず、テニス選手に日本食ファンは多い。錦織も「パリは、ご飯がおいしいですね」と言うので、てっきり美味なフレンチに舌鼓を打っているのかと思いきや、「食べるのは、日本食が多いです。おいしいし」とのことだった。

 なおこれは2年前の全仏で、錦織が街に一人でショッピングに行ったときのこと。身体障害者のバッジをつけた女の子が、何かしらのアンケートを取っている様子で近づいてきた。ただこのときは、急いでいたし目的もよく分からないので、断ってその場を去った錦織。そうして後で人から聞いたところによると、それはスリの一団だったという。男性アスリートと言えど、独り歩きは用心が必要なようだ。

 ジンクス、リラックス、プラクティス――例え試合のない日でも、選手がやるべきことは多い。試合という縦糸の間に、これらの要素を横糸として差し挟みながら、グランドスラムの2週間は織り上げられていく。
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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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