5戦目で世界挑戦の“新星”田中恒成の夢

船橋真二郎

5.30愛知で国内最短記録に挑む

国内最短となるプロ5戦目での世界王座奪取に挑む“中部の新星”田中恒成 【船橋真二郎】

 中部に待望のスター誕生はなるか――。名古屋の畑中ジムに所属する19歳の田中恒成(4勝2KO)が5月30日、愛知・パークアリーナ小牧でWBO世界ミニマム級王座決定戦に臨む。目指すは畑中清詞会長から数えて5人目の世界王者。2004年3月、戸高秀樹が王座を失ってから10年以上、この地にもたらされることがなかったベルトである。それだけではない。田中の世界獲りは派手な記録で彩られる。5戦目の王座獲得は井上尚弥(大橋)の6戦目を更新する国内最短奪取記録。世界に目を広げても、センサク・ムアンスリン(タイ)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の3戦目、ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)の4戦目に次ぐ、史上3番目(4位)の記録となるのである。

心身両面のタフネスが問われる一戦

距離を取り、俊敏なステップワークを駆使したボクシングが軸になる 【写真は共同】

 型破りな記録に挑むWBO世界ミニマム級2位の田中と空位の王座を争うのは同級1位のフリアン・イエドラス(メキシコ/24勝13KO1敗)。田中と同じく初の世界戦となる27歳は13年7月、カルロス・ブイトラゴ(ニカラグア)との全勝対決に敗れ、世界戦線から一歩後退したが、それから3連勝で今回のチャンスを掴んだ。

「タフで体もパンチも力強そう。下がる気はないというタイプだし、ボディでどんどん削ってくるので、精神的にも疲れる試合になる」
 田中が覚悟しているように、イエドラスのタフネスと馬力はまだキャリアの浅いホープを苦しめる可能性を秘めている。畑中会長、父の田中斉(ひとし)トレーナーは「いいパンチが一発当たったからといって、調子に乗ると危険」と口を揃える。世界戦は12ラウンドの長丁場。田中の心身両面のタフネスが問われる試合となりそうだ。

俊敏なステップワークを駆使

対戦相手のWBO世界ミニマム級1位のイエドラスは「調子に乗ると危険な相手」と畑中会長も警戒する 【写真は共同】

 田中の武器は何といってもスピード。距離を取り、俊敏なステップワークを駆使したボクシングが軸になるのは間違いないが「どう考えても(最後まで)脚は使い切れないと思う」とロングレンジとクロスレンジ、いずれの局面でもしっかりと自分のペースに持ち込めるようにイメージを膨らませている。これはイエドラス対策という面もあるのだが、昨年10月、東京・後楽園ホールで東洋太平洋王者の原隆二(大橋)に挑戦した経験が大きい。
「課題を一番感じたのは接近戦。いかに自分がそこで攻勢に出られるか。また、距離を取ったところからでも、うまいこと自分の攻撃につなげられない部分があったので、そこでの戦い方も意識している」

大きな自信となった原隆二戦

田中にとって大きな自信をもたらしたのが、プロ4戦目でのOPBF東洋太平洋王者・原隆二戦 【写真は共同】

 18戦全勝10KO、世界4団体で上位にランクされる強豪への挑戦は最大にして最後の関門だった。「チャンピオンの肩書きを持つ人の執念を感じた」と振り返る一戦は、王者に先行を許しながらも挽回。拮抗した一進一退の攻防を10回TKOで制し、堂々と世界に歩を進めた。
「このレベルでもできるんだと自信にもなった。あそこで原さんとやっとらんかったら。そう思うと不安です」

 この19歳の恐るべきところは第一に結果を求められる大一番で、それだけでは決して満足しないこと。実戦を通じて学習し、肌で感じたものを自身の次につなげる“成長力”こそ、田中の最も優れた才能であり、並みの選手の何倍ものスピードで飛躍を遂げてきた理由だろう。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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