バスケ界に注がれる豊富な見聞とノウハウ “経営のプロ”大河正明の声<後編>

大島和人

「いろいろな要素でサッカー界は成り立っている」

大河は競技にとらわれず、Jリーグでの知見を生かし、JBAの役員として「スポーツで、もっと、幸せな国へ」を実現したいと語った 【スポーツナビ】

――先ほども話が出ましたけれど、Jリーグの現理事には小宮山悟さん(野球)、有森裕子さん(陸上)と、他競技から来た方がいます。そういう方との交流から得るものもありますか?

 プロ野球で言ったらオープン戦の露出がどうしてあんなにあって、サッカーのプレシーズンマッチ、キャンプが取り上げられにくいのかだとか。そういうことは小宮山さんが言うと「ああそうなのか」と納得します。

 また、Jリーグではハーフタイムの15分が経っても(ピッチに選手が)戻ってこないということがよくありました。去年からそれをやったチームはペナルティー付きにしましたが、有森さんからは「陸上だと『位置について』のときに集まってこない人はいない」という話が出たり。サッカー界だけでやっていては得られない視点が得られますね。

 僕はサッカーで給料をもらって何年かやっていましたけれど、競技としてはバスケットをやっていた人間です。サッカー界にいて感じたのは、(Jリーグは)「日本のスポーツ文化を醸成しましょう」とか、「スポーツで、もっと、幸せな国へ」と謳って、バスケットがどうとかサッカーがどうといった話をあまり聞きません。だから僕がサッカー界の人間ではなかったのに役員になれたのでしょう。村井(満)チェアマンも学生時代にサッカーをやっていたとはいえ、サッカーのプロ選手ではない方がチェアマンになっている。その前はラグビーの人(大東和美)がチェアマンをやっていましたから。

 もちろん僕が(サッカーの)技術的なことを語れと言われたら専門家には太刀打ちできませんけれど、クラブ経営を語れと言われれば逆のこともある。そういういろいろな要素があって、サッカー業界は成り立っているわけです。それでいいと思いますよ。

「(Jのクラブは)数字も全部頭に入っている」

――バスケットボール協会の新理事として、まずここに着手をしたいということは何ですか?

 都道府県協会、各種連盟、試合といった現場を回っていきたいと思います。僕はJリーグでも各クラブ、自治体、試合も含めてですけれど、年間で一番たくさん足を運んでいるのではないかと思います。それはバスケットに行っても同じように続けたいかなと思います。

――去年はJリーグの常務理事としてどれくらい足を運ばれたんですか?

 何回出張したかな……。僕は4シーズン(Jリーグに)いて、多いクラブは10回以上行っています。もちろん全クラブ(52クラブ)に行っているし、全クラブのホームスタジアムを見ています。単純に視察ということではなくて、スタジアムの検査表というのがありましてね。スタジアムの客席に見切り席がないかとか、ドーピングコントロールルームがどうなっているかとか、いろいろな見るポイントがあるわけです。Jリーグに佐藤(仁司)というスタジアムのスペシャリストがいます。佐藤と何十回と一緒に行ったなぁ。

――そういった評価はJ1やJ2、J3のライセンスにも絡む部分ですよね?

 もちろんです。財務やガバナンスはもちろんですけれど、スタジアムや練習場やクラブハウスといった施設面も基準を設けています。クラブハウスには何が備わっていなければいけないか、規約やクラブライセンス交付規則で全て決めています。全クラブを知っていますよ。J1からJ3までの全52クラブ+6(JFL以下の百年構想クラブ)の売り上げがどれくらいあって、J1とJ2は(債務超過のクラブが)消えましたけれど、債務超過額がJリーグ全体でどれくらいあってという……。そういう数字も全部頭に入っているし、社長がどんな人でどんな経歴をお持ちかというプロファイリングも全部できています。クラブの強み弱みも含めて熟知しているつもりでした。

 それを(バスケ界で)また一からやるのは大変だなぁと思いながらも、やっていきたいですね。

「(バスケ界は)これ以上悪くなることはない」

――今後も現場でいろいろな方と触れ合っていかれるということですね?

(クラブだけでなく)都道府県協会ともいろいろな意見交換をしたいですね。サッカー界ではJFAが都道府県協会を回っていますが、「Jリーグも一緒にどうぞ」と言ってもらって、すでにJクラブがある地域の他、まだJクラブがない三重と鹿児島にも行きました。鹿児島は(鹿児島ユナイテッドFCが)百年構想クラブに上がってきましたが、Jリーグに入りたいクラブのサポートも水面下でやっていました。

 普及活動や大会の運営などは、県協会の方が幅広くやっておられる。でもサッカーを事業として考えると、クラブの方が専門家です。そこがうまく連携しているといいのですが、反発し合っているとダメです。試合運営のお手伝い一つとってもうまくいかなくなってしまいますから。

――バスケでも都道府県協会との連携が重要になりますね。

 もちろん、そうです。バスケットファミリーが62万人いて、後背には家族がいます。そういう人たちは、試合を見に来てくれるということだけを取っても大きいじゃないですか。バスケットボールはサッカーのようにピッチが痛む、傷まないという懸念があまりないので、前座試合は積極的にやっていきたいですね。

――バスケ界の可能性についてはどうお考えですか?

 良い言い方ではないけれど、これ以上悪くなることはないだろうと思っています。もし万が一、プレーヤーズファーストでなかったり、事務局で熱心に働いている職員をないがしろにした権力抗争みたいなものがあったりした場合、それはお客様にも選手にも私たちを支えてくださるステークホルダーにも非常に失礼な話です。どこを目指して進むべきか、もう一度よく考えながら進んでいく必要があると思っています。

――川淵さんは「新リーグが成功することは間違いない」とおっしゃっていましたが、大河さんはどうお考えですか?

 成功すると信じてやっていますよ。やっていますけれど、まったく霧に包まれた中にいて、川淵さんは山頂が見えているのかもしれないけど、僕にはまだ見えないな(笑)。 見えるようにしなきゃならないですね。メディアの皆様の力も大切だし、いろいろな人の力をお借りしながら成長していきます。よろしくお願いします。

大河正明

日本バスケットボール協会 専務理事兼事務総長
1958年京都府出身。学生時代はバスケットボールに親しみ、京都・洛星中学校時代には全国大会ベスト4進出、また洛星高校時代には近畿大会に出場し、準優勝に輝いた経歴をもつ。京都大学卒業後、三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。支店長等を歴任後、10年10月に退行。同11月より社団法人(現・公益社団法人)日本プロサッカーリーグに携わり、管理統括本部長兼クラブライセンスマネージャーとしてクラブライセンス制度の確立などに尽力。12年よりJリーグ理事を務め、14年1月より常務理事。その他、公益財団法人日本サッカー協会理事、株式会社ジェイリーグエンタープライズ取締役、Jリーグフォト株式会社取締役、株式会社Jリーグメディアプロモーション監査役を兼務。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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