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あらためて「セレ女現象」を検証する
J2・J3漫遊記 セレッソ大阪<後編>

セレ女の定義とは何か?

舞洲の練習グラウンド。この日は平日の午前で雨が降っていたにもかかわらず、熱心な女性ファンが見学に来ていた
舞洲の練習グラウンド。この日は平日の午前で雨が降っていたにもかかわらず、熱心な女性ファンが見学に来ていた【宇都宮徹壱】

 まずはC大阪を応援しているという若い女性に、実際に話を聞いてみることにした。ツエーゲン金沢をホームに迎えた4月11日、地下鉄長居駅にほど近いドーナツ屋で、ともに24歳の2人組の女性サポーターにインタビューする。ところが「セレ女? 一緒にせんといてほしいわ!」とのっけから衝撃的な発言が飛び出す。


「ウチらは特定の選手を見ているわけじゃなくて、C大阪というクラブが好きで応援しているんですよ。選手の追っかけみたいに言われるのは心外やわ」


「友だちからも『C大阪を応援しているの? じゃあセレ女だね!』とかよく言われる。最近はもう慣れましたけど、浦和レッズにも女子サポはいっぱいいるやんか。なんでウチらだけ『セレ女』とか言われるんやろうね?」


 聞けば、ふたりとも学生時代にC大阪の運営のアルバイトを始めたのがきっかけで、卒業後はサポーターとして応援するようになったという。ロンドン五輪世代の選手たちについても、「地元出身の同世代の子たちが頑張っている」というシンパシーは感じるものの、彼らのルックスに夢中になっているわけではないと強調する。どうやら「C大阪を応援する女性=セレ女」という固定観念は改めたようがよさそうだ。


 では、セレ女の定義とは何か? 関西在住のライターである中西裕里は、C大阪のホームゲームに来場した若い女性にアンケート調査した結果をもとに、その定義付けを試みている。彼女の分析によれば、セレ女には(1)C大阪を応援している女子全般、(2)サッカーには興味がない単発的な「顔ファン」、という2つの意味があるという。そして「セレ女」と言われることに関しては、(1)の認識であればさほど抵抗感はないものの、(2)と捉えられていると「自分はサッカー自体が好きであり、セレ女ではない」と反発する傾向があるのだそうだ。その上で中西は、アンケート調査の結果をこのように総括する。


「セレ女が試合を見るようになったきっかけは、やっぱりロンドン五輪が大きくて、初観戦は13年という人が圧倒的に多かったですね。ツイッターなどのSNSがスタジアムに行くきっかけとなったという回答も目立ちました。彼女たちの傾向としては、スタジアム観戦だけでなく練習見学にもひんぱんに訪れること、シーズンチケット購入者が多いことが挙げられます。そうそう、『好きな選手が移籍したら?』という設問には、ほぼ全員が『C大阪ファンを続ける』と回答していましたね」


 ちなみに、C大阪を応援するようになってからの変化として「サッカーに興味を持つようになった」以外にも、「友だちが増えて毎日が楽しくなった」「仕事をがんばれるようになった」といったポジティブな回答が多く寄せられ、さらには「身の回りのものがいつの間にかピンクになっていた」「桜が好きになった」という意見もあったという。

「にわか」から脱皮し定着する女子も

ピークだった昨シーズンに比べると入場者数は減ったが、クラブ愛に目覚めた女性ファンは少なくない
ピークだった昨シーズンに比べると入場者数は減ったが、クラブ愛に目覚めた女性ファンは少なくない【宇都宮徹壱】

 取材を進めるうちに、どうも「セレ女=ミーハー女子」というイメージは、メディアが作り上げてひとり歩きしたものではないか、という疑念が拭えなくなってきた。前出の調査を見ても「自分たちはサポーター」「特定の選手ではなくクラブを愛している」という女子のほうが圧倒的に多い。もちろん、試合そっちのけで選手の写真を撮りまくったり、お目当ての選手が移籍したらスタジアムから足が遠のいたりする女子も一定数はいるのだろう。だがその一方で「にわか」から脱皮して、クラブに定着していった女子もまた少なからず存在している。それは、クラブ側のデータからもうかがい知ることができる。以下、事業部営業グループ兼海外事業推進グループ課長、猪原尚登の証言。


「やはりJ2に降格したということで、入場者数そのものは落ちています。ただし過去2回の降格と比べると、それほど極端な落ち方ではないと思います。よく『降格して、柿谷や南野がいなくなったからセレ女がいなくなった』なんて話を耳にしますが、年間パスの売れ行きに関していえば、男女共に同じ割合で減っているんですよ。逆に13年と比較すると、むしろほとんどの世代で女性のお客さんが増加していることが分かります」


 猪原が示したデータによると、15歳以下(95.0%)と30代(97.0%)を除いて、すべての年代で13年よりも年間パスの売り上げが伸びていることが分かる(女性全体で111.7%。ちなみに男性は93.1%)。13年といえば「セレ女」という言葉が生まれた年であり、チケットが取りにくくなったと言われるようになったのもこの頃から。翌14年にはフォルランが加入したことで、年間パスの売り上げもピークに達した(前年比で男性が153.5%、女性が173.9%)。さすがにこの年と比べればダウンは免れない。が、女性に関しては13年よりも微増しているところを見ると、ブームを経て定着した層は間違いなく存在している。


 それでは、クラブがJ2に降格したにもかかわらず、また人気選手が移籍したにもかかわらず、女子のファンが定着した背景は何か。さまざまな理由が考えられるが、ひとつ挙げるならばゴール裏の寛容さであろう。あるコアサポは「長居は(ガンバ大阪の)万博に比べると敷居が低いし、ゴール裏のサポの間にも、にわかの人たちを受け入れる土壌がありますね」と語る。セレ女に対して、あまり快く思わない人も皆無ではないとは思うが、全体としては「むしろ巻き込んでファンになってもらおう」という意識のほうが強いという。


 敷居の低さと、にわかを受け入れる寛容さ。どうやらそのあたりに、ライト層を取り込むヒントがありそうだ。いずれにせよ、12年のロンドン五輪から現在に至るセレ女の動向は、単に当該クラブのみならず、Jリーグ全体で検証すべき興味深い事例である。


<この稿、了。文中敬称略>


(協力:Jリーグ)

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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