美憂が語る“山本家”の食生活=最強アスリート一家を育てた鍋料理

長谷川亮

レスリング一家の山本家はどのような食事をしてきたのか。現在40歳ながらもリオを目指す山本美憂に話を聞いた 【長谷川亮】

 父・郁榮はミュンヘンオリンピック日本代表、そして自身と妹・聖子はレスリング世界チャンピオン、弟の山本“KID”徳郁はプロ格闘家として活躍し、長男のアーセンもリオ五輪出場を目指すレスラーと、“日本最強”ともいわれるアスリート一家に育った山本美憂。1990年代に世界選手権3度優勝、現在も40歳にして現役を続け、カナダ代表としてのリオ五輪を狙う。カナダから一時帰国した美憂に、その心身を作り上げた山本家の食卓について尋ねると、食事だけにとどまらない父・郁榮の大きな教えが浮かび上がってきた。

コンディションを作用する大きな要素

父・郁榮の方針で野菜、肉、魚などがバランス良く摂れるお鍋やスープが多かったという 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――アスリート揃いの山本ファミリーですが、一家の食卓はどのようなものだったのでしょうか。

 父が現役時代から自分で体調管理や栄養管理をしていた中で私たちが生まれて、レスリングを始めて大きくなると減量も出てきますし、そうなると食事方法もいろいろ変わっていきましたけど、基本的にはバランスの取れた食生活っていうのを心掛けてもらっていました。

――周りの家庭と比べて、何か違っていたことというのはありましたか?

 スープとかお鍋がうちはすごく多いんだなって思いました。それは父の方針で、お味噌汁1つでもワカメとお豆腐だけじゃなく、もう何品目も入ってるんです。スープとかもそうですし、お鍋なんて野菜も肉もお魚も一気に摂れるじゃないですか。子どものうちはサラダもそんなに食べられないから、そうやってお鍋にして野菜をたくさん摂るようにしていました。

――以前弟のKIDさんに話を聞いたら、おやつが煮干しだったなんて話をされていました。

 そうなんですよ、他にもナッツ類だったり(苦笑)。お菓子を口にするようになったのはお友だちの家へ遊びに行くようになってからで、小学校後半とか中学生までお菓子はほとんど食べたことがありませんでした。デザートに関してはうちの母がフルーツを使って作ってくれていました。

――何か食事における山本家独自のルールがあったりしたのでしょうか?

 家にジュースが置いてあったことはないですね、1回も。ほんとにお水が多かったです。あとは牛乳。だから今も食事中にジュースを飲む習慣が全くないんです。食事の時はお水が一番合います。

――幼少期からそうした食生活を送ってきて、やはり食事はコンディションを左右する大きな要素だと思われますか?

 だと思います。私はほんとに小さいころからそういう食事をしてきたから、今もこうやって現役でできるのかなって、最近それをすごく思うようになりました。“何で自分はこの年でもできるのかな?”って考えて、トレーニング方法もそうですけど、一番底の部分でああいう食生活をしてきたからかなと思っています。

ジュースを飲むアーセンに「ダメ!」

長男アーセンにはコンビニや自動販売機でのジュースを絶対飲ませなかった美憂 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――父・郁榮さんの食事における教えはどんなものだったのですか?

 好き嫌いは絶対に許さなかったですね。でもそのかわり、嫌いな食べ物を「ほら、食べろ」ではなく、なんとか少しでも美味しく食べられるよう母と研究して食べさせるようにしていました。でも、それでもダメな時はとにかく「好き嫌いはいけない」と。これはなぜかというと、大きくなってから学校で「この教科は好き、この教科は嫌い」とか、人を見て「この人は好きだけど、この人は嫌い」とか、そういう風になってほしくないって、そういう父の思いがあったんです。だからその食生活が私たちのいろんな感性にも影響したと思います。

――ただ食べ物の好き嫌いにとどまらない、大事な教えが込められていたのですね。

 好き嫌いの多い方って、「これはイヤだ」って思うものは決して受け付けなかったり、人に対しても「この人はちょっとイヤだ」と思ったら拒絶して、人と接したり仲よくなって何かするっていうチャンスを全く与えない人になってしまうと私は思うんです。でも、そういうのってすごく人生で損をしてるように私は思います。

――好き嫌いで判断すると、その先にあるかもしれないいろんな可能性を拒んでしまうのですね。

 小さいころはそんなに分からなかったんですけど、大きくなっていろいろ見ていくうちに、好き嫌いの激しい人は「この人はイヤ」とか、他のものに対してもスパスパ切っていってしまうというか、そういうことが見えるようになってきたんです。その時に父が言っていたのはこういうことだったのかなと思って。だからうちの子に対しても好き嫌いはさせないようにしています。

――アーセンさんの食事の面で、好き嫌いをさせない他にどんなことを気を付けていたのでしょうか。

 バランスよく摂るようにさせていましたけど、野菜は結構普通に食べる子だったので、サラダとかをポンって出しても大丈夫だったし、でもやっぱりお鍋が多かったですね。あとジュースは本当に飲ませないようしていました。

――コンビニや自動販売機で容易に買えて、つい何気なく飲んでしまうジュースですが、やはり良くない影響があるのでしょうか?

 砂糖や糖分がいっぱい入っていたり、保存料も入っているのを知っているのであんまり飲んでほしくないですよね。でも大きくなって自分でものが買えるようになると、美味しいから買っちゃうじゃないですか。だからそういうのを見ると、「ダメ!」って言ってすごく怒りました。なので今も私が見てると、お水を飲んでいます(笑)。

バランスのいい食事の重要性

美憂はバランスよく食事を摂ることの重要性を説く 【長谷川亮】

――美憂さんご自身の食事におけるこだわりはどんなものがありますか?

 私が今住んでいるのは健康志向が強いところなんです。だからナチュラルストアがあったり、普通にスーパーでもバジルやオレガノだったりいろんなハーブが、日本より全然安く売っているので、そういうハーブを使ったり、あとは塩・コショウ・レモンとかで味付けをしています。化学調味料は絶対使いません。使うと味が分かるんですよね。お肉にしても塩・コショウで、最後にレモンやライムを掛けるとか。

――やはりKIDさんも化学調味料は絶対使わないと以前の取材で話していました。アスリートの人は自身の資本となる体を作る、食事に対しての意識もやっぱり高いのですね。

 ほんとにバランスよく摂らないと、すごく体に出ちゃうんです。やっぱりこの年でトレーニングもハードにやると、ちゃんと食べている時の方がリカバリーというか疲労回復が早いのかなって感じます。そういう正しい生活をしていると、“自分は大丈夫”ってメンタル的にも思えますし、食事や生活を正しく送っていれば、体は絶対ウソをつかないと思います。

――2020年東京五輪へ向けて山本ファミリーのように子どもをアスリートに育てたいと考えている親御さんに、最後に何かアドバイスをお願いします。

 日本はそういうナチュラルな食材が高いので、ちょっと大変かもしれないですけど、できるだけいいものを使っていくよう心掛けていくと、こっちの店ではこういうものが安い、あっちの店にはこういうものがあるっていうように、いろいろ情報も入ってくると思います。ベジタリアンとかそんなに偏らなくていいので、バランスよく食事を摂ることがやっぱり私はいいと思います。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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