ベテランと若手が合宿で得た自信と危機感 ハリルホジッチが示した「世界基準」

元川悦子

指揮官が熱望して実現した2日間の合宿

国内組のみの代表候補合宿を実施したハリルホジッチ監督。選手たちに何を伝えたのか 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 6月16日のシンガポール戦から2018FIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会への新たな一歩を踏み出す新生・日本代表。本来であれば、昨年のW杯ブラジル大会直後から新たな体制で準備を進めているはずだったが、ハビエル・アギーレ前監督の契約解除によって、3月にヴァイッド・ハリルホジッチが新監督に就任。現体制での活動時間は同月のチュニジアとウズベキスタンとの2連戦(約10日間)だけとなっていた。

 新指揮官は6月のW杯予選、そして8月の東アジアカップを視野に入れ、5月中の国内組のみの代表候補合宿実施を熱望。日本サッカー協会側がJクラブに頼み込んだことで、5月12日と13日の実施にこぎつけた。こうした経緯があったからこそ、彼らはこの2日間を最大限有効活用しなければならなかった。

 それに先駆けて11日にメディア対応したハリルホジッチ監督は「選手たちにダイレクトにメッセージを伝えたい」と繰り返し強調。自ら選んだ28人に「世界基準」を刷り込んでいく考えを明らかにした。今回のメンバーは、32歳の大久保嘉人(川崎フロンターレ)から20歳の浅野拓磨(サンフレッチェ広島)まで年齢層が実に幅広い。29歳で初招集となった丹羽大輝(ガンバ大阪)、Jリーグの試合にあまり出ていない杉本健勇(川崎)のような選手も含まれている。そうやって幅を持たせたのも、チーム内の競争意識を激化させ、選手層の拡大を図り、全体のレベルを向上させていこうという狙いがあったからだろう。

 迎えた合宿初日の12日。選手たちは昼に千葉県内の宿舎入り。その後、すぐにミーティングかと見られたが、「練習前は飯食って昼寝しただけ。昼寝の時間も部屋から出るなと言われた」と大久保が苦笑しながら語ったように、まずは体力温存第一となったようだ。

濃密なトレーニングとミーティング、そして個別指導

合宿では濃密なトレーニングとミーティングが行われた。GKにインステップキックを指導する場面も 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 17時からの練習は、まず笛と同時に全員が走ってセンターサークルに集合。3月の合宿と同様、10分近い青空ミーティングからスタートした。指揮官の身振り手振りの熱血指導は相変わらず。ランニングにも参加して選手たちを鼓舞(こぶ)していた。その後、フィールドの選手は5人1組の対角線を意識したパス出し、タッチライン幅を使った4人1組での移動しながらのパス交換、タテに長いエリアを使った6対6のポゼッション練習、11対11+フリーマンのゲームという流れで進んだ。

 GKはランニング後に別メニューとなったが、ハリルホジッチ監督が直々にインステップキックの指導する場面も見られ、より正確なボールフィードを求めていた。そして最後は選手全員で体幹強化にも取り組んだ。ハリルホジッチ監督はフィジカル強化の必要性を強く感じており、前回合宿後には各選手宛てに個別メニューまで送付している。その考えをあらためて実践で示した格好となった。この日は武藤嘉紀(FC東京)が右太もも前を打撲し、途中離脱するアクシデントが発生。それだけ濃密なトレーニングが行われたということだ。

 夜には1時間の全体ミーティングが開かれた。この場では、5月6日のUEFAチャンピオンズリーグ準決勝、FCバルセロナ対バイエルン・ミュンヘン戦の分析をもとに、世界基準に近づくには何が必要かが具体的に示された模様だ。その後は個別指導もあったという。監督から名指しで「言うことは20日前から決まっている」と予告された槙野智章(浦和レッズ)は、守備面の細かい部分の指導を受けた模様。「的確なことを言われた」と本人も神妙な面持ちで話していた。

 翌13日は2部練習で、午前はメディア非公開にして1時間半の戦術練習を実施。16時からの午後練習は複数パターンのパス回し、6対5+GKを消化したところで攻撃陣と守備陣に分かれての練習となった。前者はタテの動きを意識したシュート、そしてクロス&シュートを実施。後者はインターセプト練習の後、クロス対応を徹底的に確認した。トレーニング時間は午後も1時間半。最後には指揮官が「メルシー(ありがとう)」と選手に感謝を伝え、全員で円陣を組んで手を合わせて気合を入れるパフォーマンスもあった。ただ、この日も山口蛍(セレッソ大阪)が別メニューになるなど、負傷者が出たこともあってかサバイバルの紅白戦は行われないまま終了した。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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