“間”の修正が呼び込んだビッグスロー 海老原有希、復活の2年ぶり日本新

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63メートル80で日本記録を更新

日本記録を更新するビッグスローを見せた海老原。本人も「自画自賛」と大満足の出来だった 【写真は共同】

 ふわりとリリースされたやりが、大きな放物線を描いて日本記録を示す赤いラインを越える。その瞬間、海老原有希(スズキ浜松AC)は両手で大きなガッツポーズを作って飛びあがった。記録は、2年前に自身が樹立した日本記録を97センチも上回る63メートル80。初夏を思わせる晴天の中で行われた陸上のセイコーゴールデングランプリ川崎(10日、神奈川・等々力陸上競技場)で、女子やり投げの第一人者がビッグスローを披露した。

「(やりを)投げて『いったかな』と思って。ちょっと大げさに喜んでみました」と海老原はおどけてみせた。2投目に60メートル53と大台を超えて手応えをつかむ。「本当に2投目が惜しくて。もう一押し、やりを押し込むことができたらいいなと思って」挑んだ5投目で飛び出した会心の投てき。海外勢に及ばず順位は4位だったものの、本人も「自画自賛です」と大満足の出来だった。

「長いような短いような、皆さんにはお待たせしましたという言葉しかございませんと」と語る表情は、感慨深げにすら見えた。
 それにはわけがある。昨年2月に左足首を痛めて以来、海老原は不調に陥っていた。同年の日本選手権では7連覇を果たし、女王の面目を保ったものの、本調子からは程遠い。それでもヨーロッパ遠征、アジア大会とあえて試合には出続けた。シーズンベストも10月の国体でマークした60メートル25と振るわなかったが「本当に状態が良くない中で、割り切ってしっかり60メートルまでは投げられたので、ちゃんと良い状態で投げられたら、(良い記録で)投げられる」と前向きに捉え、トレーニングを続けた。

今季初戦で気がついたこと

世界選手権の派遣設定記録も突破。代表入りに大きく近付いた 【スポーツナビ】

 次第にケガも癒え、順調に練習を積んで迎えた4月の織田記念国際。今季初戦となるこの試合で、海老原はあることに気がついた。クロスステップからやりを投げる直前、左足の踏み込むタイミングが遅れていたのだ。しっかりと踏み込めていないため、腕や体が先に出てバランスの崩れた投てきになっていた。

 クロスステップから最後の左足を踏み込むまでに、今までにない“間”があることを、本人はうすうす気がついていた。「ビデオで見なくても、投げながらずっと思っていたので。『遅いな、遅いな』と思いながらずっときてしまいました」と海老原は振り返る。足首の痛みからか、無意識のうちに強く踏み込むことにブレーキを掛けてしまっていたのかもしれないとも言う。しかし、それが「自分で作っている間」であり、修正が必要と理解した海老原は、左足を踏み込むタイミングの調整に集中した。それがこの日の試合ではピタっとはまった。

 63メートル80のビッグスローで、今夏の世界選手権(8月22日開幕、中国・北京)の派遣設定記録(63メートル34)を突破。「(6月の)日本選手権でしっかり勝ち切って、世界選手権では入賞を目標に持ってしっかり取り組んでいきたい」と闘志を燃やす。

 満足のいく結果が出なくとも歩みを止めることなく、2年越しの自己ベストで完全復活を遂げた海老原。「今日みたいに戦う相手が世界の選手になると、『負けたくないな』という気持ちがすごく強くなる」。そう語った彼女の視線はすでに、真夏の北京へと向いていた。
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