原博実が見た自衛隊サッカー 原点を感じさせる大会の存在価値

平野貴也

異彩を放つアマチュアサッカー大会

全国自衛隊サッカー大会の決勝が味の素フィールド西が丘で開催された 【平野貴也】

 国内に数あるアマチュアサッカー大会の一つに、全国自衛隊サッカー大会がある。1年に1度行われる、全国に点在する自衛隊の基地、駐屯地で活動するチームの日本一決定戦だ。

 選手、審判、運営委員を基本的にすべて自衛官が務めるという点で、異彩を放っている。世間がゴールデンウィークを迎える直前の4月26日、味の素フィールド西が丘では独特の雰囲気の閉会式が行われていた。普通であれば、優勝チームのはじけるような笑顔が式を彩るものだが、コの字型に整列した4チームは、泰然自若そのもの。その様子には、ほんの少し前までピッチで繰り広げられた歓喜も悲嘆も見られない。表彰式になると、サッカー選手から自衛官へと表情を変えるのだ。

 1人の号令に全チームが従い、選手は肘を腰に付けるようにした駆け足で表彰台へ向かった。今年の第49回大会は、海上自衛隊下総航空基地が25年ぶり12度目の優勝を飾り、第3回を数えた女子の部は、陸上自衛隊朝霞駐屯地(チーム名:SULWAY)が2年ぶり2回目の栄冠に輝いた。

 非常にマニアックな大会ではあるが、この大会にはアマチュアサッカーが持つ魅力と価値が詰まっている。大会は、全国自衛隊サッカー連盟が主催、日本サッカー協会(JFA)が後援している。閉会式の檀上には、2年連続で視察に訪れ、あいさつを行う原博実JFA専務理事の姿があった。

 原専務理事は、昨年の閉会のあいさつで、コンタクトプレーの後でも痛がることなくすぐに立ち上がって戦う自衛官たちの姿を称賛。今年は、選手の家族が応援に来ている風景に言及し「日本のサッカーの原点がある」と目の前で繰り広げられた光景を感慨深げに振り返った。全国自衛隊サッカー大会とは、いかなる意義を持つ大会なのか。要職に就く原専務理事の言葉を交えながら紹介したい。

運営もすべて自衛官

大会を後援しているJFAからは、原専務理事が視察に訪れた 【平野貴也】

「平日は仕事をして、週末にはサッカーをやる。家族や同じ会社の仲間が応援に来てくれる。(1993年にJリーグが誕生する以前に)僕らが現役でやっていた頃の風景に似ていますね。大会関係者の方に話を聞きましたけれど、やはり、彼らは多忙で練習時間はなかなか取れていないようです。普段の任務だけでも大変なのに、空いた時間や、家族と過ごすべき週末にサッカーをやっているわけです。本当にサッカーが好きですよね。そうじゃないと、できないはず。でも、だからこそ余計にサッカーができる喜びを知っているというか、やるときには一生懸命にやるべきだということが分かっているのだと思います。女子も球際の争いは激しかったけれど、楽しそうにやっていました。それが一番良かった。国防という大変な任務に就いているから、強さや優しさを持っているのかなとも感じます」

 男子の部、女子の部のそれぞれ最終日を視察した原専務理事は、大会の率直な印象を話した。

 この大会の最大の特徴は選手のみならず、審判や運営までも基本的にすべて自衛官が行っているということだ(女子の部の審判は東京都サッカー協会に依頼)。運営担当は、防衛大のサッカー部OB。彼らは幹部であるにも関わらず、この大会では真摯(しんし)に下働きをしている。幹部ともなれば、代えの利かない仕事もあるが、同期や年の近い世代で代わる代わる運営にあたっている。その姿には、自らが触れてきたサッカーや大会をつないで来た先人への感謝、そして運営組織の1人としての責任感が溢れている。

 また、審判の有資格者が多くいることも驚きだ。この大会の審判出身者には、現在は国際審判員として活躍し、Jリーグで副審を務める姿もよく見かける大塚晴弘がいる。約1週間にわたる開催期間、運営も審判もこの大会を開催し続けるために、仕事や生活を相当に調整して臨んでいる。まさに、サッカーを愛する想いの強さによって存続していると言ってもいい、手作り感のある大会だ。その辺りの成り立ちも原専務理事の感想と無関係ではないだろう。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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