井村体制で成長し続けるシンクロ日本代表 進化の鍵は磨きをかけた“足”にアリ

沢田聡子

肉体的進化が生んだ独特の美しさ

シンクロナイズドスイミングのジャパンオープンで優勝した乾・三井組。独特の美しさがにじみ出る好演を見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「今まで以上に周りの方がすごく応援してくださったり期待してくださっているのをすごく感じているので、(井村)先生にも『これを楽しめなかったらもったいない』って言われますし、自分の中でもエネルギーに変えてやっています」

 シンクロナイズドスイミングジャパンオープン(2〜4日、東京辰巳国際水泳場)の最終日、日本代表主将の乾友紀子はそう話した。

 昨季ワールドカップでウクライナを抑えて銀メダルを獲得した日本は、メダルを射程に入れて7月に開幕する世界選手権(ロシア・カザン)に臨む。世界選手権前の最後の試合となるジャパンオープン、デュエットで優勝した日本代表の乾・三井梨紗子組のフリーには、今までの日本になかった独特の美しさがあった。昨季から泳いでいるジャズの旋律にのった洗練されたルーティンが、細く、筋肉が浮き出るような2人の足でさらに映える。

演技のポイントとなった細く、筋肉が浮き出るような足。世界選手権へさらに磨きをかけていく 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 井村雅代ヘッドコーチは、昨季はただ丈夫なだけだった足が「奇麗でクリアな、小技が効く足になった」と代表の選手たちの肉体的な進化を認め、「それを使わない手はない」と演技のさらなるブラッシュアップを図っている。「選手のイメージ・持ち味が変わったならば、攻め方も変えないと」。世界選手権までに目指すのは「オーラの出た、長い丈夫な足」を作り上げることだ。

 長年シンクロ委員長として井村コーチと共に日本シンクロの黄金時代を築き、昨季のワールドカップでもチームリーダーとして日本にメダルをもたらした金子正子氏は「去年は普通の女の子の足から、相当鍛えた太い足になってきた。それを今年は絞り込んできている、今そういう過程なんです。鋭い足を目指している。細くなるだけではなくて、鋼鉄のような筋金の入った細さですね」と解説する。

不調の乾に井村コーチが掛けた言葉

ハードスケジュールで不調に陥ったエース・乾に、井村コーチはいろいろな方法で手をかけた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 日本の進化は肉体面だけではない。「修正の幅を持てるようになった。いろんなことが起こったとしてもそれを修正できる力がついた」と井村コーチは評価する。フリーコンビネーションで、初めて代表として泳ぐ田崎明日花が、緊張のため陸上動作の三点倒立で倒れそうになった。それを三井が支え、「大丈夫だよ、持っているよ」となだめてから、水中に入ったという。

 また、乾は世界選手権で全種目に出場する。ソロを泳ぐエースは体力面の負担を考え、どこかの種目から外れることが多い中、乾は過酷な選択をしたことになる。ジャパンオープンでも3日間で計10種目泳いだ乾は、2日目の朝に「体力的にというよりは気持ちの面で少しくじけてしまった」と不調に陥る。「こういうハードな試合を経験できることは素晴らしいことなんだ」と乾に言っていた井村コーチは、「たった1日4種目泳いだだけでこの狂いようはなんだ」と活を入れる一方で、乾にいろいろな方法で手をかける。最終日、井村コーチは語った。

「今日に関しては、彼女は私の言うことが分かって、ひとつ越えてくれたかなって。きっと何か大きな成長をしてくれたんじゃないかなと思います。彼女は昨日の朝、自分の体がいつもの感覚と全く違って、どんどんネガティブに考えていった。でも世界選手権になったらもっと変なことが起こるんやと。それにどう対応するかということを教えたつもりです。ものすごく良い経験になりました。体力だけの勝負ではなくて、人間の中にある精神力がどれぐらい大きな影響を及ぼすかということです」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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