優勝するために開幕ダッシュは必要か? グラフィックレポートで検証

ベースボール・タイムズ

4月1位で優勝確率「23%」、Aクラスは「91%」

 シーズン開幕から約1カ月が経った。北海道日本ハム、東京ヤクルトが期待以上の好スタートを切った一方で、オリックス、広島の2チームが、大方の予想に反して下位に低迷している。長いペナントレース、果たして5月以降の巻き返しは可能なのか? 4月に出遅れたチームの逆転優勝は可能なのか? 東北楽天が誕生した2005年から10年間のデータを元に、「優勝するために開幕ダッシュは必要か?」の問いに対する“答え”を探したい。

【ベースボール・タイムズ】

 過去10年、4月を首位で終えたチームはセ・パ両リーグ合わせて22チーム(11、12年の同率首位2度を含む)。そのうちシーズン最終順位でも1位なのは、のべ5チームある。08年の埼玉西武と12年の日本ハム、そして巨人が07、09、13年と計3度、開幕ダッシュの勢いを優勝に結びつけた。

 この優勝確率「23%」をどう見るか。試合数と比較すると若干重要だという程度。だが、これを「優勝」ではなく「Aクラス」に幅を広げると、開幕ダッシュの有効性が一気に上昇する。4月首位チームは、「91%」の確率で、シーズン3位以上で終えているのだ。

 さらにBクラスで終えたのは2チーム(06年巨人、11年広島)のみで、最下位チームは過去10年なし。開幕1カ月の戦いが、その後の戦いに大きな影響を与えていることは間違いない。

4月最下位からの逆転Vは至難の業

【ベースボール・タイムズ】

 では反対に、開幕ダッシュに失敗した場合はどうか。過去10年、4月終了時点で最下位だった計21チーム(13年の同率5位を含む)中、優勝したのは13年の楽天のみ。2位が2チーム(08年オリックス、12年西武)、3位が1チーム(11年西武)あるが、その他の17チームはそのままBクラスに沈んだ。その確率は「81%」に上る。

 唯一、逆転Vを成し遂げた13年の楽天も、4月終了時点で最下位とはいえ同率5位(11勝14敗、首位と6ゲーム差)と“開幕ダッシュ失敗”との感覚は薄かった。そして4月を最下位で終えた21チーム中9チームが、そのまま6位でシーズン終了。その確率は「43%」に上る。極端な出遅れは禁物。開幕ダッシュは、成功よりも失敗したときの方が大きなダメージを受ける。

“先行”のソフトバンク、“自在”の日本ハム

【ベースボール・タイムズ】

 少し角度を変えて、4月終了順位とシーズン終了順位の関係性を見てみよう。過去10年のパ・リーグで、4月をAクラスで終えた回数が最も多いのは福岡ソフトバンクの8回(1位1回)。そしてシーズン1位4回の内訳は、「4月2位→優勝」、「4月3位→優勝」がともに2回ずつ。脚質的には、王道の“先行押し切り”タイプだ。

 同じく過去10年でシーズン1位4回の日本ハムは、4月Aクラスが6回(1位2回)。優勝4回の内訳は、12年「4月1位→優勝」、09年「4月2位→優勝」の“先行逃げ切り”の一方、06、07年はともに「4位→優勝」の“追い込み”での逆転Vにも成功している。

 一方、千葉ロッテは過去10年で4月Aクラス7回(1位2回)も、シーズン終了時はAクラス4回、1位は0回と急下降している。西武は4月Aクラス5回(1位3回)から、シーズン終了Aクラスは7回(優勝1回)と5月以降に巻き返す傾向が強い。

“安定”の巨人&中日、“ブレーキ”の4チーム

【ベースボール・タイムズ】

 セ・リーグでは、巨人が4月終了時点でAクラス入り6回(1位5回)で優勝も6回。「4月1位→優勝」の“逃げ切り成功”が3回(07、09、13年)ある一方、08年「4月4位→優勝」、12年「5位→優勝」と、たとえ出遅れてもしっかりと追い上げている。

 過去10年でAクラス8回(優勝3回)を誇る中日は、4月Aクラス6回(1位2回)で、優勝3回の内訳は、06年「4月2位→優勝」、10年「4月3位→優勝」、11年「4月4位→優勝」。4月1位の2回(05、12年)はともに優勝を逃しているだけに、先頭に立つよりも好位置につけてからの“差し”が得意のパターンだ。

 この2チームの陰で、他の4チームは5月以降のブレーキが目立つ。特に広島は4月1位が2回あるが、11年「4月1位→最終5位」、14年「4月1位→最終3位」と“逃げ切り”に失敗している。

広島、オリックスの逆転Vの可能性は!?

 過去の“大逆転V”の例としては、1996年の巨人が思い出される。4月終了時点で首位から7ゲーム差の5位、その後、最大11.5ゲーム差にまで開いたが、逆転優勝して「メークドラマ」を完結させた。さらに08年の巨人は、4月終了時点で首位と7.5ゲーム差の4位、その後の最大13ゲーム差を逆転し、「メークレジェンド」と呼ばれた。また、日本球界最大の逆転劇としては、最大14.5ゲーム差を覆した63年西鉄の例がある。

 そして「4月最下位からの逆転V」の事例としては、88年の中日がある。4月を5勝11敗の最下位で終え、その時点で首位と8ゲーム差をつけられたが、5月以降に快進撃を見せて最終的には2位・巨人に12ゲーム差をつけてみせた。だがそれ以降、4月最下位からの優勝は、“神の子”田中将大(現・ヤンキース)を擁した前述の13年楽天まで成し遂げられなかった。

 翻って今季、前評判の高かった広島、オリックスが下位に低迷中。データ的には厳しいが、決して逆転Vが不可能というわけではない。むしろ、この逆境を乗り越えて過去のデータを覆したとき、「奇跡の○○」や「○○ドラマ」といった修飾語とともに、ファンの心に強く刻まれることになる。さて、この2チームに、底力はあるか。

(文:三和直樹、グラフィックデザイン:山崎理美)
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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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