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吉か凶か…HRテラスの恩恵受けるのは?
ベースボール・グラフィックレポート

東京ドーム並みに狭い球場となったヤフオクドーム

 開幕から間もなく1カ月が経つ今季のプロ野球に、異変が起きている。ホームランの数が激減しているのだ。4月19日時点で、12球団合計の本塁打数は110本。1試合平均だと0.96本で、これは昨シーズンの1試合平均1.58本を大きく下回る。一部では「ボールがまた変わったのではないか」とも騒がれているが、現時点で真相は分からない。


 そんな中で今年、ホームランが激増しそうな“球場”がある。昨季の日本一・福岡ソフトバンクの本拠地、ヤフオクドームである。

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 ソフトバンクは今年、5.8メートルある高い外野フェンスの手前に「ホームランテラス」という新シートを新設。フェンスまでの距離は最大5メートル短くなり、「プロ野球で最もホームランが出にくい」あるいは「投手有利」と言われた球場だったヤフオクドームは、今年からホームランが出やすいと言われている東京ドーム並みに狭い球場へ生まれ変わった。

今季、ホームランが倍増する!?

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 ホームランテラスによって、昨季はフェンス直撃だった打球の大半がフェンスを越えそうだ。仮に昨年、ソフトバンクの選手が放ち、フェンスを直撃した打球が全て本塁打になるとすれば、データ上では上記の図の通り本塁打数は「34」から「62」とほぼ倍増することになる。

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 実際に今季、ソフトバンクはここまで6試合のヤフオクドーム開催試合で早くもホームランテラスの恩恵にあずかっている。3月31日のオリックス戦では柳田悠岐、内川聖一、李大浩のクリーンアップがそろってホームランテラスに打ち込み大勝。ネット上の野球ファンからは早速「テラスムラン」などと揶揄(やゆ)され、「テラスの建設が最大の補強」といった声も上がっている。今季からソフトバンクの外野守備走塁コーチを務めている飯田哲也氏も「絶対ウチには有利だと思うよ」とコメントしている通り、優れた中距離打者をそろえたソフトバンク打線にとっては理想的な球場かもしれない。


 ソフトバンクの孫正義オーナーは、20代の頃から企業経営に「孫子の兵法」を応用していることで知られていているが、その教えのひとつに「戦いにおいて地形をいかに利用するかが重要である」というものがある。ホームランテラス導入によって、戦場であるヤフオクドームの“地形”そのものが変わったのだ。


 選手会長の松田宣浩も「(ホームスタジアムは)ホームチームが有利に戦えるようにしないと」と話していたが、メジャーリーグでは自軍のチーム事情にあわせたホームスタジアムを作ることはよくあること。たとえば2008年までニューヨーク・ヤンキースの本拠地だった旧ヤンキー・スタジアムは、圧倒的にライトまでの距離が短く極端に左打者有利の球場だった。1923年の開場当時、ヤンキースには左打ちのスーパースター、ベーブ・ルースが所属しており、このいびつな球場設計はルースの本塁打を増やすためだったとの説もある。


 ソフトバンクは昨年、ホームで43勝21敗と圧倒的な強さを発揮した。ホームランテラスの新設はまさに鬼に金棒!……かと思いきや、実はそうとも限らない。

他球団の方が有利になる可能性も

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 実は昨年、ヤフオクドームではソフトバンクの打撃陣が放ったフェンス直撃打よりも、投手陣が打たれたフェンス直撃打の方が多かったのである。意外にも「テラスムラン」の恩恵を受けるのは、対戦するビジター球団になるかもしれない。

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 もっともフィールドの劇的な変形を受けて、投手の配球や打撃のアプローチなども変化する可能性もあるだろう。また、冒頭で紹介した通り、プロ野球全体でホームラン自体が激減している。こうしたさまざまな要因を考えると、ホームランテラスがソフトバンクにとって吉と出るか凶と出るか、現時点では何とも言えないところだ。

ホームランテラスを導入した孫オーナーの思い

 そもそも、ホームランテラスがソフトバンクにとって有利か不利かは、孫オーナーにとってはさほど重要な問題ではないのかもしれない。どちらに転んだとしても、孫オーナーの「本塁打を増やして、ファンにより一層楽しい野球を見せたい」という思いは実現しそうだからだ。


 野球の“華”であるホームランが増えるだけでなく、たとえば記者席のようにカウンターが設置されたライト側のシートでは、パソコンやタブレットでインターネットの動画中継を見ながらの観戦なども可能。新たな野球観戦スタイルも生まれそうだ。テーブル席が設けられたレフト側のシートでは、“鷹ガール”たちが球場女子会を楽しむ光景が見られるかもしれない。


 孫オーナーといえば、ツイッターでユーザーからのさまざまな要望に対し「やりましょう」と返答し実行に移す、ユーザー目線の敏腕経営者として有名だ。今回のホームランテラス新設も、その恩恵を最も享受するのはファンなのではないだろうか。


(文:内野ムネハル、グラフィックデザイン:澤田洋佑)

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