本田と長友がベンチにいたミラノダービー 両者が過ごした困難な14−15シーズン

片野道郎

今季序盤は結果を残すも役割を見いだせない本田

開幕からの7試合で6ゴール3アシストという圧倒的な活躍を見せるも、アジアカップを皮切りにコンディションを落としベンチで過ごす時間が増えた本田 【写真:アフロ】

 本田の14−15シーズンは、所属するACミランのそれとほぼ軌を一にしてきた。開幕からの7試合で6ゴール3アシストという圧倒的な活躍を見せた序盤戦は、チームもチャンピオンズリーグ(CL)出場権をめぐる3位争いに絡む予想外の躍進でセリエAの主役を演じていた。その後、本田がゴールから遠ざかると同時にチームも調子を落とし、約1カ月間にわたって勝ち星から遠ざかる。久々に良いプレーを見せたウディネーゼ戦(11月30日/2−0)で勝利を取り戻すと、12月には3位(当時)のナポリを下し(2−0)2位ローマとも引き分け(0−0)て、CL圏内までわずか勝ち点1の6位まで順位を戻した。

 しかし、その後本田がアジアカップ出場のためにチームを離れた年明けの1月、たった1カ月の間に、ミランは信じられない不振に陥ってしまう。焦ったクラブは攻撃陣にアレッシオ・チェルチ、マッティア・デストロを補強、それを受けたフィリッポ・インザーギ監督も、システムを4−3−3から4−2−3−1、4−3−1−2、そして再び4−3−3へと切り替え、メンバーも試合ごとに入れ替わるという迷走状態に陥り、現在まで中位に低迷する状態が続いている。

 アジアカップから戻ってきた本田は、明らかにフィジカルコンディションが落ちて動きにキレを欠き、また戦術的に混迷するチームの中で自らの機能と役割を見いだすことができないまま、2月半ばには3試合続けてスタメン落ち。3月16日のフィオレンティーナ戦(1−2)でスタメン復帰を果たしたものの、今度はトレーニング中に足首を痛めて戦列を離れるというアクシデントに見舞われ、現在に至っている。

 序盤戦の6ゴールは、ジェレミ・メネスを最前線に据えたカウンター志向の4−3−3というインザーギ監督の戦術と、オフ・ザ・ボールで積極的にスペースをアタックすることでよりフィニッシュに特化したプレースタイルを追求・確立しようとしていた本田のプレーがうまく噛み合って生まれたものだった。

 しかし、シルビオ・ベルルスコーニ会長、アドリアーノ・ガッリアーニ副会長の要望を受け入れる形で、移籍市場の目玉商品だったフェルナンド・トーレスをセンターFW(CF)に起用し、重心を上げてより攻撃的に振る舞う方向に戦術を修正しようとした10月以降、チームのメカニズムはうまく噛み合わなくなり、本田も前線に飛び出すよりは中盤で組み立てに絡む頻度が高くなって行った。

本田と長友そして両チームにとって災厄だったアジアカップ

 前述のウディネーゼ戦以降、インザーギ監督はトーレスに見切りをつけて再びメネスをCFとして起用するようになる。そのメネスにともかくボールを預け、個人能力を生かした単独突破でゴールを奪おうという戦術コンセプトの中で、本田は自らがフィニッシュに絡むよりもやや低めの位置で攻守のバランスを取るというチーム優先のプレーに徹し、脇役としてチームの一時的な復調を支えることになった。

 もしミランがこの12月の時点におけるチーム構成でその後も戦い続けていたら、これほど迷走することもなく、逆に組織的なメカニズムを確立して一つの明確なアイデンティティーを獲得していたかもしれない。しかし、他でもない本田がアジアカップのためにチームを離れるという事情があったために、ミランはその穴埋めとしてチェルチの獲得を決め、さらに1月に入ってからの不振に焦って、戦術的にはそれまでの4−3−3とまったく相容れないデストロまで獲得するという振舞いに出てしまう。この「ボタンの掛け違い」が、後半戦の混迷を決定付ける要因となったことは明らかだ。

 結果論でしかないことを承知でいえば、ポストワールドカップイヤーの1月に開催されたアジアカップは、本田と長友、そしてミランとインテルに災厄しかもたらさなかった。2人が過ごした14−15シーズンは、欧州の第一線でのプレーと日本代表での活躍を両立させることが、いかに困難かつデリケートな問題かということを、改めて考えさせるものだった。

 本田に関していえば、来シーズンのミランにおいてどんな位置づけになるのかは、現時点においてはまったく不透明だ。契約はまだあと3年残っており、同い年の長友が直面しているような延長問題とは無縁。しかし問題は本田ではなくクラブ側の状況にある。

 30年近くオーナーの座に君臨してきたシルビオ・ベルルスコーニ会長は、アジア資本にクラブの経営権を売却する方向で、複数の交渉相手と話し合いを進めている。何らかの形でその結論が出るまでは、来シーズンのチームがどれだけの資金を元手に、どのような考え方で編成されることになるのかは未知数のままだ。いずれにしても確実なのは、インザーギ監督には未来がないということ。要するに、ほぼすべてが白紙の状態だということだ。本田は他の多くの選手と同様、主力としてチームに残る可能性もあれば、売りに出される可能性もある。どちらにしても、すべてをゼロリセットして新シーズンに臨まなければならないだろう。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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