村上佳菜子、重圧とともに歩んだ1年 現役続行を決断、心の奥底にあった情熱

スポーツナビ

全日本選手権の惨敗で「空っぽになった」

惨敗した全日本選手権で痛感したのは、浅田・鈴木の存在の大きさだった 【坂本清】

 今季シニアデビューの本郷理華(愛知みずほ大瑞穂高)がいきなりGPファイナルに出場。昨シーズン、ソチ五輪出場を争った宮原知子(関大中・高スケート部)もGPシリーズ2戦連続3位と、気がつけば10代の選手たちに先を越されていた。のしかかる重圧と焦り。それでも年末に行われる全日本選手権は、村上にとって相性の良い大会だ。ここ4シーズン連続で表彰台(3位2回、2位2回)に上がっており、それを考えれば初優勝も十分に期待できる。

 だが待っていたのは、またしても悲しい結末だった。SPではジャンプでことごとく回転不足をとられ、まさかの9位発進。自身としては悪くない演技だっただけに言葉が出なかった。気落ちしたFSでもミスが頻発し、5位に浮上するのが精いっぱいだった。あふれ出る涙。消え入りそうな声を必死に振り絞った。

「空っぽになった大会でした。練習では今までのスケート人生にないくらい追い込んできたので、これくらいいくかなという気持ちでいたんですけど、見事にスパッと切られた感じがしています」

 全日本選手権で痛感したのは、浅田と鈴木の存在の大きさだった。

「真央ちゃんやあっこちゃんがいないことで、今回は追う背中がなかった。自分ではそこまで気にしていなかったんですけど、たぶんどこかでいつも背中を見て、2人がこうしているから自分もこうしなきゃと思っていたので、目標の選手がいなかったというか、そういう部分で今までと違う全日本選手権でした」

 新女王には宮原が輝き、当時13歳の新星・樋口新葉(日本橋女学館)が3位で表彰台に上った。「日本女子、新時代の到来」。そんな言葉が喧伝された。覚えたのは疎外感だ。5年連続で世界選手権の代表には選ばれたものの、心の底から笑うことはできなかった。

現役続行を決断した理由

世界国別対抗戦のSPでは、不調ながらもまとめて5位に。観客からは温かい拍手が送られた 【坂本清】

 世界国別対抗戦の前日会見(4月15日)で発した言葉は、思いも寄らぬ形で受け止められた。「去就はもう決めています」。多くの人がこの発言を「引退か」と解釈してしまった。その後、慌てて現役続行を明言したが、そういう捉え方をされたことに驚いた。昨シーズン中にも1度は引退を考えていた。その“前科”に加え、今季の成績も影響しているのだろう。世界選手権もSPで4位と好スタートを切りながら、最終的には7位に落ちた。今季、村上の苦渋に満ちた表情を何度も見た人にとっては、「引退」という結論の方がしっくりくるというところか。

 現役続行は山田満知子コーチや母親と話し合って決めた。「やっぱり心の奥底では『やりたい』という気持ちがあったんです」。自身ととことん向き合って気づいた偽らざる本心。悔しさを何度味わっても、厳しい練習で涙をたくさん流しても、フィギュアスケートが好きだという思いに変わりはない。競技に対する情熱もある。

 鈴木は2月の取材時、慈愛に満ちたエールを送っていた。

「今はいろいろ変わっているときなので、佳菜子にとってはつらい時期だと思いますけど、こうした経験が必ず彼女を大きくすると思っています。そしてそれがスケートに生きてくるので、これからも見守っていきたいですね」

 世界国別対抗戦のSPでは、不調だと言いながらも無難に演技をまとめ、5位につけた。詰めかけた9082人の観客からは温かい拍手を受けた。その声援が競技を続ける原動力になる。もうすぐ重圧とともに歩んだ村上の1年が終わる。「来季に向けて体幹トレーニングを変えてみたり、いろいろ新しいことを始めてみようと思っています」。まだ見ぬ強い自分と出会うために。今後は自らが定めた針路を進んでいく。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント