ついに訪れたクロップ監督の退陣発表 成長を求められるドルトムントと香川真司

中野吉之伴

ドルトムントにとどまらなかったクロップの貢献

今シーズン終了後にドルトムントを退団することが発表されたクロップ監督 【写真:ロイター/アフロ】

 ひょっとしたら、という声がなかったわけではない。しかし、実際に発表されると、やはり誰もが驚いた。ボルシア・ドルトムントのユルゲン・クロップ監督が、今シーズン終了後の退団を決断。急きょ行われた記者会見では、ドルトムントのハンス・ヨアヒム・バッツケ代表取締役が涙をこらえながら、ゆっくりと言葉を紡ぎだしていた。

「すばらしい結果をもたらした7年間の共同作業は、今シーズンで終わりとなる。特別に強力な信頼関係でわれわれは結ばれ、これまでやってきた。ユルゲン、ファンタスティックな成功と君の仕事ぶりに、われわれボルシアに携わる全ての人々から永遠に終わらない感謝が送られることだろう」

 一時期は経営難による債務超過で、破たん寸前まで落ち込んでいたドルトムント。そんなクラブにクロップがやってきたのは、徐々に再建のめどが立ってきていた2008年だった。じっくりと時間をかけてチーム作りが進められたドルトムントは、香川真司が加入した10−11シーズンに多くの若手がブレークし、見事に9シーズンぶり7度目となるリーグ優勝を果たす。翌シーズンにはDFBポカール(ドイツカップ)との2冠を達成。特にバイエルンを5−2で一蹴した決勝戦は、今でも語りぐさだ。12−13シーズンにはチャンピオンズリーグ(CL)決勝にも進出している(1−2でバイエルンに敗戦)。

 クロップの貢献は、ドルトムントだけにとどまらない。チーム全体が連動した積極的なプレス、守備ラインからの鋭い縦パスを起点にしたコンビネーション、奪われると同時に奪いに行くゲーゲンプレッシング、ワンタッチで縦にどんどん展開していくカウンター。ドイツの盟主として君臨していたバイエルンでさえ、自分たちのやり方を曲げてまでドルトムントのサッカーを参考にした。ドルトムントに2連覇を許した後、名将ユップ・ハインケスがそのサッカーを積極的に取り入れたことで、バイエルンは翌年のタイトル奪還に成功。CLとカップ戦と合わせ、3冠ヘとチームを導いた。今ではほとんどのブンデスリーガクラブが、クロップサッカーのノウハウを取り込んでいる。ドイツ全体のレベルアップに、大きな役割を果たしたと言っても過言ではない。

クロップの後任は元マインツ監督のトゥヘルか?

クロップの後任者として最有力とされている元マインツ監督のトゥヘル 【写真:アフロ】

 そのクロップが退陣するだけに、ドイツメディアの反応は当然ながら大きかった。記者会見はドルトムントの公式サイト上で無料ライブストリームとして提供され、テレビでも生中継された。『ビルト』紙では「今年のブンデスリーガ最大のセンセーション」と書き、西ドイツ新聞オンライン版『デアベステン』では「一つの時代が終わった」との見出しが掲げられた。

 記者会見でクロップは、最初は言葉を探しながら、徐々に、しかしいつも通りはっきりとした声で自身の思いを明かし始めた。

「これまで語ってきたとおり、もし自分がこの素晴らしいクラブにとって『もはや正しい監督ではない』という気持ちを抱く時が来たら、それが『その時だ』と思っていた。この素晴らしいクラブは、100パーセントのものをもたらすことができる監督に率いられるべきなんだ。1人の人間として、ここでやり続けたいという思いはもちろんある。しかしロマンティックにではなくプロとして、そうした決断を下さなければならなかった」

 バッツケ、そしてチームマネージャーのミヒャエル・ツォルクとは何度も話し合いを重ね、慰留されたという。しかし最終的には「クラブの将来のために」と了承した。

 それでは、クロップの後を継ぐのは誰なのか。会見でドルトムントは、後任者に関する質問を一切受け付けることはなかったが、最有力とされているのは元マインツ監督のトーマス・トゥヘル。現在フリーというだけではなく、ドイツ代表候補にも上がる逸材である。マインツではクロップが築き上げたチームを引き継ぎ、その流れを踏襲しただけではなく、さらに洗練させたという実績を持っている。再出発を図るドルトムントにとって、これ以上の適任はいないと言えよう。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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