競泳・日本選手権に見た収穫と課題 共通するのは「本当のメンタルの強さ」

田坂友暁

ベテラン選手が見せた『覚悟』

100メートルバタフライで優勝し、代表権を勝ち取った藤井拓郎。「負けたら引退」を明言し、覚悟を持って大会に臨んでいた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 忘れてはいけないのは、ベテラン勢の奮起である。特に100メートルバタフライで代表権を勝ち取った藤井拓郎(コナミ)は「負けたら引退」を明言し、自ら退路を断った。
 代表権は取れなかったが、松田丈志(セガサミー)も「ただ単にリレーで日本代表に入りました、という1年を過ごすよりも、やっぱり来年はバタフライで戦いたいという気持ちが強いのでこの種目に懸けた」と、200メートル自由形を棄権。800メートルリレーの代表権獲得のチャンスを捨てて、200メートルバタフライに挑んだ。

 池江、持田といった若手の台頭を肌で感じていた、松本弥生(ミキハウス)と山口美咲(イトマン)は、年明けから100メートル自由形で54秒台を出し、その勢いを今大会まで持続させてきっちりと結果を残してきた。

 こういった選手たちから感じたのは“覚悟”である。

 いつの時代も、ずっと自分がトップで居続けられるわけではない。若手が出てきて、敗北する瞬間も訪れるだろう。しかし、翌年に五輪を控えた今シーズン、それに甘んじていたら、間違いなく勢いに飲み込まれてしまう。自分がかつて先輩たちを倒していったように、若手の勢いが恐ろしいことを知っている。だからこそ、強い“覚悟”を持たなければ世界への切符はつかめない。藤井も松田も、松本も山口も、それを良く分かっていたし、代表に入ったベテラン選手は、皆“覚悟”を持っていた。

 大学生や高校生たちに“覚悟”という言葉は厳しいかもしれないが、覚悟は“決意”にも置き換えられる。断固たる決意を持ってこの大会に臨んできた選手が、代表権を勝ち取り、世界への切符をつかんでいるのである。

本当に達成したい目標は何か?

小関(左)や萩野が見据える目標は、いかに世界と戦えるか。本当のメンタルの強さが伺える 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 また、印象的な言葉を200メートル平泳ぎ決勝後、小関が残した。
「昨年は2分07秒を出そうと練習してきたがでなかった。それじゃダメで、2分06秒台を出す。それくらいの気持ちじゃないと、2分07秒で泳ぐのは難しいんだって感じました」

 派遣標準記録を切るという目標だけでは、その目標達成の枕詞に「100パーセント調子が良かったら」がつく。もし本気で世界でメダル争いをしたいならば、派遣標準記録よりも高い記録が目標タイムになるはずだ。その気持ちでトレーニングしていれば、日本選手権で調子が上がらず80パーセントの体調だったとしても、派遣標準記録は突破できるだろう。

 萩野は大会中、常々「身体がシャキッとしなくてもどかしい」と話していたが、それでも派遣標準記録は突破している。それは萩野の目標としているところが世界のトップであるから、調子が上がらなかったとしても代表権を獲得するという最低限の課題はクリアできるのである。

 もちろん、高すぎる目標は道を見失ってしまうため、ある程度現実を見なければならない面もある。しかし、今大会で優勝したり2位になったりして、それでも派遣標準記録を突破できなかった選手たちは、本来ならば世界で戦える実力を持っている選手たちが多い。

 本当に世界と戦いたいのか。ただ日本代表に入ることを目標にしているのか。自分が見据える先と、本当のメンタルの強さというものを、五輪を翌年に控えた今シーズン、もう一度見直さなければならない時が来たのかもしれない。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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