JTが果たした「大きな価値のある優勝」 チームの変革を促した名将と越川の存在

市川忍

創部84年、悲願のリーグ初制覇

創部84年、JTが悲願のリーグ初制覇を成し遂げた 【坂本清】

 越川優の放った強烈なサーブが相手選手の腕をはじき、コートに落ちて跳ね返った。ゲームセットを告げるホイッスルが鳴った瞬間、アップゾーンにいた選手がコートになだれ込む。3階席まで埋まった大応援団からは、大歓声とともに金色のテープが次々と投げ込まれている。4月5日、東京体育館で行われた男子V・プレミアリーグの決勝戦は、セットカウント3−0でJTサンダーズに軍配が上がった。創部84年の長い歴史の中で、JTが味わう初めてのリーグ優勝だ。

 ヴェセリン・ヴコビッチ監督は言う。

「今まで誰も成し遂げられなかった優勝を果たしました。越川を筆頭にすべての選手が歴史に名を残してくれた。とてもファンタスティックです」

 レギュラーラウンドを15勝6敗47ポイントの1位で勝ち上がったJTが、決勝の相手として迎えたのは前週行われたファイナル3で豊田合成トレフェルサを破ったサントリー・サンバーズだった。第1セットこそ41−39と激戦だったが、第2、第3セットをどちらも25−19でJTが奪い、ストレート勝ちの圧勝で悲願のリーグ優勝を果たした。

 入団11年目のリベロ、酒井大祐は語る。

「以前と何が変わったのか? 優勝できた理由はなんなんでしょうね。はっきりとは分かりませんが、でも間違いなく、監督が就任したこと、(越川)優が移籍してきたことが大きいです。2人が来たことで周りの人間が影響を受け、少しずつ変わったんじゃないでしょうか」

潜在能力を開花させたきっかけ

ヴコビッチ監督(右)と越川(左)の存在がチームの変革を促した 【坂本清】

 チームが6位と低迷した2012−13年V・プレミアリーグの終了後、JTはチーム改革に着手した。過去、セルビア・モンテネグロの代表監督としてチームをワールドリーグ準優勝、世界選手権ベスト4に導いた実績のあるヴコビッチを新監督に招へいしたのである。

 ヴコビッチ監督にとって初めての采配となった13−14年V・プレミアリーグでJTはいきなり準優勝。続く5月の黒鷲旗でも準優勝に輝く。昨年12月に開催された天皇杯では7年ぶりに頂点に立った。いまだ経験のないV・プレミアリーグの優勝に向けて周囲の期待も膨らんでいった。ヴコビッチ監督は言う。

「もちろん長い間、優勝していないという周囲の期待も感じました。感じたからこそ、私も24時間、バレーボールのことを考えて戦ってきました。これまでの監督経験で、大事な試合へ向けてのチームの作り方は分かっているつもりです。監督に就任したとき、JTは下位に低迷していた時代が長いせいで、選手が自信を失っているように見えました。だからチームに自信を植えつけることに重点を置いてきました。ときには、私の顔を見たくないと選手に思われるのではないかというくらい厳しいことも言いましたよ」

 ブロックとレシーブの関係やレシーブのポジショニングなど、ひとつひとつのプレーの質を高めるため選手にこつこつと言い聞かせた。酒井は言う。

「リベロというポジションの僕としてはすべてのボールを拾いたくなるんですけれど、自分が追うべきボールと、追わないボール、無理に拾いにいかないで次のプレーに備えるべきときなど、割り切ってプレーできるようになりました。個々の役割分担がはっきりしたと思います」

 ヴコビッチ監督とともに13年にチームに加わった越川は移籍1年目からキャプテンとしてチームをけん引してきた。イタリアリーグでのプレー経験を持ち、サントリー時代には優勝にも貢献している。全日本の一員として北京五輪をはじめとする数々の国際舞台も踏んできた。越川は言う。

「移籍してきて最初にかけてもらった言葉が『優勝させてくれ』でした。自分でも優勝するためにこのチームに来たと思っています。実現できて良かったです」

 大一番での勝利を知るヴコビッチ監督の就任と越川の加入が、個々の潜在能力を開花させるきっかけとなったことは間違いない。

1/2ページ

著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント