井岡一翔が悲願の3階級制覇なるか!?=4月のボクシング興行見どころ

船橋真二郎

井岡家にとって6度目の挑戦

2度目の3階級制覇挑戦に挑む井岡。31歳のベテラン王者レベコにどう立ち向かうのか!? 【写真は共同】

 悲願の3階級制覇へ――元2階級制覇王者の井岡一翔(井岡/16勝10KO1敗)が4月22日、大阪・ボディメーカーコロシアム(大阪府立体育会館)第1競技場でWBA世界フライ級王者のファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン/35勝19KO1敗)に挑む。井岡は3度防衛したWBAライトフライ級王座を返上後の昨年5月、アムナット・ルエンロエン(タイ)のIBFフライ級王座奪取を目論んだものの、1−2の判定負けでプロ初黒星を喫すると同時に3階級制覇を阻まれている。3階級制覇は叔父の井岡弘樹氏が1990年代にフライ級で3度、スーパーフライ級で1度挑んで跳ね返された高い壁でもある。一翔は井岡家にとって通算6度目の挑戦での悲願達成を目指す。

 元WBAライトフライ級王者で現在の王座を8連続防衛中のレベコは31歳のベテラン。オリンピック出場などの目立った国際実績はないが、アマチュアで培った技巧をベースに持つ小柄なテクニシャンだ。2013年2月には3度目の防衛戦で来日し、多彩な左を軸に黒田雅之(川崎新田)の挑戦を大差の判定で退けてもいる。徹底して対戦者の力を出させない術に長けたアムナットに比べ、レベコは噛み合う相手と言えるのかもしれない。だが、試合途中で左拳を痛めながら、それをほとんど感じさせなかった黒田戦での引き出しの多さが示すように世界戦15度(14勝8KO1敗)のキャリアはやはり侮れない。

 もともと井岡陣営は昨年大みそかの挑戦を目指していたが、レベコの負傷の影響でまとまらなかったという経緯がある。代わりに井岡は元WBAフライ級暫定王者のジャン・ピエロ・ペレス(ベネズエラ)と拳を交え、5回KO勝ち。11年6月にレベコが2回KOで下し、暫定王座(のちに正規王者に昇格)を獲得した相手を右ストレート一発で鮮やかに仕留めた。結果的に挑戦が延びたことで、昨年9月のパブロ・カリージョ(コロンビア)戦とあわせ、フライ級で南米選手とのテストマッチを2戦経験できたことは井岡にはプラスだったと捉えていいだろう。試合巧者同士の対戦だけに短期決着は想像しづらい。井岡が難敵を下し、世界王座への返り咲きと3階級制覇を果たすことができるか。雌伏の1年はより攻撃に軸足を置いて戦ってきた井岡だが、あらためて、その総合力が試されることになる。

4団体制覇の高山が初防衛戦

日本人史上初となる4団体制覇を果たした高山。4月22日にIBF王者としての防衛戦を行う 【写真は共同】

 22日の大阪はダブル世界戦。IBF世界ミニマム級王者の高山勝成(仲里/28勝11KO7敗)が初防衛戦に臨む。高山は昨年大みそかに大平剛(花形)との決定戦でIBFとWBO王座を戴冠。日本人では史上初となる4団体を制した。両団体の指名試合の時期が重複することから、統一王者として防衛スケジュールをこなすことは困難と判断し、WBO王座は返上した。挑戦者はIBFライトフライ級8位にランクされるファーラン・サックリンJr(タイ/27勝15KO3敗1分)。21歳の若武者は日本でもお馴染みで過去日本人とは2勝1敗1分。昨年4月には日本でプロ2戦目の井上拓真(大橋)に大差の判定負け、同年9月には拓真のデビュー戦の相手を務めたサウスポーの日本ランカー福原辰弥(本田フィットネス)を地元タイに迎え、内容的に分の悪い引き分けに終わっている。遠くない将来のライトフライ級転向を視野に入れる4団体王者としては、はっきりと実力差を見せなければならないだろう。

山中が無敗の挑戦者を迎え撃つ

連続KO防衛は5で止まったWBC世界バンタム級王者・山中。8度目の防衛戦は無敗のサンティリャンを迎え撃つ 【中原義史】

 井岡、高山のダブル戦の前の週の16日には同じボディメーカーコロシアム第1競技場で、WBC世界バンタム級王者の山中慎介(帝拳/22勝16KO無敗2分)が8度目の防衛戦を迎える。挑戦者は世界的には無名の23歳だが、23戦全勝15KOの好戦績を誇るディエゴ・サンティリャン(アルゼンチン)。浜田剛史・帝拳ジム代表が「得体の知れない怖さがある」と表現したように、その戦歴のほとんどすべてが故郷のサルタ州で刻まれたものであり、わずかな映像を見る限りでは、フックやアッパーを振り回す右のファイター型と窺えるだけで真の実力は計り知れないところがある。

「(挑戦者は)大きく振ってくる分、打ち出しと打ち終わりに隙がある。そこを突ければ、自然と倒すチャンスが出てくると思っている」という山中が狙うのは5連続で途切れたKO防衛。視線の先には海外進出や統一戦がある。世界戦8戦全勝6KO。破格の強打を備えるサウスポーはライバルにとってはリスクが高く、結果を出すほどに敬遠されるかもしれないというジレンマを抱えるのも確か。だが、山中は「次は強い奴とやらせたい、統一戦を見たいと思わせるような最高の試合を見せたい気持ちが強い」とビッグマッチに相応しい実力を堂々と示し、ステップアップにつなげる構えだ。

木村、世界初挑戦へアピールを

11連続KO中の小原。次もKOで終わらせれば、連続KO勝利の国内記録5位タイに並ぶ 【写真は共同】

 4月は東西で計11(東洋太平洋3、日本8)のタイトルマッチが行われる。4日の東京・後楽園ホールでは日本ライトフライ級王者の木村悠(帝拳/15勝2KO2敗1分)の3度目の防衛戦。無冠時代にプロ初黒星を喫した小野心(ワタナベ)が直前の負傷で挑戦を辞退したため、5位の山口隼人(TEAM10COUNT/12勝2KO5敗1分)が木村に挑むことになった。山口は11年11月、前出の黒田が保持していた同王座に挑んで以来、2度目の日本王座挑戦。そのときは王者からダウンを奪うなどの奮闘を見せ、1−2の判定で惜敗しているだけに強い意気込みで臨んでくるだろう。元アマチュア全日本王者で、4団体で世界ランク入りする木村は目標の世界初挑戦に向けて、内容でアピールしなければならない。

 5日には大阪・ボディメーカーコロシアム第2競技場で東洋太平洋戦が2つ。12時半開始の1部興行ではライト級王者の中谷正義(井岡/9戦全勝5KO)の3度目の防衛戦。挑戦者のアクセル住吉(関門JAPAN/4勝1KO3敗1分)は全日本選手権ベスト4が2度、全日本社会人選手権優勝など、豊富なアマキャリアを持つ29歳。初挑戦で王座を下関に持ち帰ることができるか。長身パンチャーの中谷は過去2度の防衛戦の内容が不本意だっただけに、本来のポテンシャルを見せたいところだろう。17時開始の2部興行では空位のバンタム級王座が3位の山本隆寛(井岡/15勝12KO3敗)と4位の川口裕(グリーンツダ/22勝10KO6敗)の間で争われる。川口は2度目、山本は初のタイトル挑戦。初めてベルトを腰に巻くのはどちらか。拮抗した戦いになりそうだ。

 8日の後楽園ホールでは世界4団体でランクインしている日本フライ級王者の村中優(フラッシュ赤羽/21勝7KO2敗1分)が3度目の防衛戦に臨む。ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)、八重樫東(大橋)、井上尚弥・拓真兄弟(大橋)など、強豪と精力的にスパーリングをこなし、地力を蓄えてきた村中の目はそろそろ世界に向いているだろう。WBA15位にランクされる林徹磨(セレス/25勝9KO2敗2分)は12年4月以来、3年ぶり2度目となるタイトル挑戦でのベルト奪取を誓う。

11連続KO中の小原がV2戦

日本スーパーフライ級王者・石田は江藤3兄弟の次男・大喜とV2戦を行う 【写真は共同】

 13日の後楽園ホールはダブルタイトル戦。東洋太平洋スーパーライト級王者の小原佳太(三迫/13勝12KO1敗)はサウスポーの岡崎祐也(中内/11勝4KO7敗1分)と2度目の防衛戦。小原は現在11連続KO勝利中。次もKOで終わらせれば、連続KO勝利の国内記録5位タイに並ぶことになる。岡崎は強豪王者に食い下がり、広島にタイトルをもたらしたい。もうひとつの日本バンタム級タイトルマッチは好カード。空手出身でプロ叩き上げの王者・益田健太郎(新日本木村/21勝11KO6敗)にアマ出身のサウスポー大森将平(ウォズ/13戦全勝8KO)が挑む。敗戦を糧に這い上がってきたベテランの益田が2度目の防衛を果たすのか、昨年5月に地元京都で世界ランカーをKOで下し、一躍、関西随一のホープにのし上がった22歳の大森がベルト奪取を果たすのか。

 19日の大阪・住吉区民センターでは日本スーパーウェルター級王者の野中悠樹(渥美/27勝9KO8敗2分)が昨年8月、約5年ぶりに返り咲いた王座の2度目の防衛戦に臨む。挑戦者は前王者の細川貴之(六島/26勝9KO10敗3分)。37歳と30歳、182センチと173センチ。年齢差も身長差もあるサウスポー同士の一戦は、世界ランカー対決でもある。22日の井岡、高山のダブル戦のアンダーカードでは日本スーパーフライ級王者の石田匠(井岡/18戦全勝10KO)が江藤大喜(白井・具志堅/14勝10KO3敗)と2度目の防衛戦。元高校王者の石田はスタイリッシュなアウトボクシングを身上とする。これが3度目のタイトル挑戦となる江藤三兄弟の次男は好戦的なボクサーファイター。石田がさばくのか、江藤が捉えるのか。好対照な両者の戦いは興味深い。

京太郎と石田が1年ぶり再戦

1年ぶり石田との再戦となる日本ヘビー級王者・京太郎(右)と初防衛戦に挑む日本スーパーバンタム級王者・小國 【船橋真二郎】

 30日の後楽園ホールはトリプル日本タイトルマッチ。日本ヘビー級王者の藤本京太郎(角海老宝石/11勝6KO1敗)と元WBAスーパーウェルター級暫定王者の石田順裕(グリーンツダ/27勝11KO9敗2分)はちょうど1年ぶりの再戦となる。ノンタイトル8回戦で行われた第1戦は藤本が小差の判定で競り勝ったが、石田勝利の声も聞かれた。3度目の防衛戦となる藤本は明白な形で返り討ちにしたいところだろう。対する石田には体格面での上積みが見込める。タイトルマッチは10ラウンドの戦いになる。両陣営の戦略にも注目だ。

 セミ格の日本スーパーバンタム級タイトルマッチは昨年12月、石本康隆(帝拳)との決定戦を制した小國以載(角海老宝石/14勝4KO1敗)が初防衛戦に臨む。元東洋太平洋王者の小國はこれが2冠目。予想不利は否めないタイトル初挑戦の古橋岳也(川崎新田/17勝7KO5敗)だが、持ち前の粘り強さを発揮し、約1カ月に及んだメキシコ合宿の成果を見せたい。もうひとつは空位の日本ライト級王座決定戦。1位の徳永幸大(ウォズ/14勝9KO2敗)は長身のパンチャータイプ。2位の杉崎由夜(角海老宝石/20勝6KO9敗1分)は出入りのスピードが武器。満を持しての初挑戦同士の一戦は熱戦必至である。

好川、36歳での王座奪取なるか!?

 最後に女子のタイトル戦を2つ。29日には大阪・堺市産業振興センターでアナベル・オルティス(メキシコ/16勝3KO3敗)のWBA女子ミニマム級王座に好川菜々(堺東ミツキ/4戦全勝2KO)が挑む。オルティスはこれが2冠目の世界王座の5度目の防衛戦。好川はプロキャリアこそ少ないが、前東洋太平洋女子ライトフライ級王者でアマ77戦55勝の強打者。36歳での王座奪取に向け、過去最軽量のウェートもカギになる。

 3日のボディメーカーコロシアム第2競技場では空位の東洋太平洋女子スーパーフライ級王座を1位の貫輝美(井岡弘樹/6戦全勝3KO)と2位の小澤遙生(フュチュール/7勝2KO2敗)が争う。26歳の貫は初の、29歳の小澤は2度目のタイトル挑戦。ベテラン勢が引っ張る女子ボクシング界にニューウェーブの台頭を期待したい。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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