バルサのクラシコ勝利を支えた2つの個 対照的だったのは指揮官の柔軟性

工藤拓

自分たちの時間を生かせなかったレアル

バルセロナがレアル・マドリーに2−1で勝利。首位をキープすると同時に勝ち点差を4に広げた 【写真:ロイター/アフロ】

 リーガ・エスパニョーラ第28節に行われた今シーズン2度目のエル・クラシコは2−1でバルセロナの勝利に終わった。

「相手の2ゴール目が鍵だった。あのゴールまでは非常に良い試合ができていたのに。なぜだかは分からない。でもあの失点の後はチームとして戦えなくなってしまった」

 試合後のミックスゾーン。ルカ・モドリッチは涙目で敗戦を振り返った。彼の言う通り、後半11分にルイス・スアレスの勝ち越しゴールが決まるまで、内容的に上回っていたのはレアル・マドリーの方だった。

 攻撃陣は3トップながら守備時は右ウイングのガレス・ベイルが中盤に下がり、自陣低めの位置に4−4のブロックを形成して相手の攻撃を受け止める。バルセロナの今季最大の脅威である3トップの個人能力を生かした速攻を仕掛けるためのスペースを消す守備は前半を通して機能し、アンドレス・イニエスタがベイルの背後をとりペナルティーエリア内左に抜け出した前半3分のシーンを除いてチャンスらしいチャンスを与えることはなかった。

 しかも、セットプレーから先制点を献上した19分以降は守るだけでなくボールポゼッションを保つ時間も増え、31分には相手CK直後のカウンターから見事な同点ゴールを奪った。

 モドリッチが相手選手を2人引きつけてからカリム・ベンゼマへくさびのパスを入れ、ベンゼマは右足ヒールでゴール前中央のスペースにボールを落とす。そこに走り込んだクリスティアーノ・ロナウドが右足のつま先でゴールネットを揺らすと、それからハーフタイムを迎えるまでの約15分間、バルセロナの選手たちは自陣で信じられないパスミスを連発するパニック状態に陥った。

 悔やまれるのは、敵陣で波状攻撃を仕掛け続けたこの時間帯に勝ち越しゴールを決めることができなかったことだ。

 40分にCKから最後はベイルが押し込んだゴールは、手前でボールに触れたC・ロナウドのオフサイドで取り消しに。43分には再び右CKがゴール前にこぼれるも、ベイルのシュートはわずかに枠を外れた。さらに勢いそのままに臨んだ後半の立ち上がりに手にしたベンゼマの決定機をクラウディオ・ブラボのセーブに阻まれると、逆に後半11分、それまでノーチャンスだったバルサに1本の縦パスから勝ち越しゴールが生まれた。

 その後は再びリードされた焦りと肉体的な疲労からレアル・マドリーがコンパクトな守備ブロックを保てなくなる。平行してバルセロナはようやくエンジンがかかってきたリオネル・メッシを起点にネイマールとスアレスがディフェンスライン裏のスペースを突く速攻でチャンスを量産。結局シュートミスとイケル・カシージャスの好守により追加点は生まれなかったものの、最後は前半とは対照的にレアル・マドリーが翻弄(ほんろう)される中で試合終了を迎えることになった。

バルサを救ったスアレス

バルサを救ったのはスアレスだった。劣勢の中、決勝ゴールを挙げ、移籍金に見合う活躍を披露 【写真:ロイター/アフロ】

 チームとして思い通りのプレーができない中、バルセロナに勝利をもたらしたのは両ゴール前の駆け引きを制した個の力だった。

 ネイマールは不用意なボールロストを繰り返し、メッシは右サイドに立ち尽くすばかりでなかなかプレーに絡んでこない。4日前のマンチェスター・シティ戦(1−0)の出来が良すぎた反動か、相棒2人がそろって覇気のないプレーを繰り返す中、攻撃面で決定的な役割を果たしたのがスアレスだ。

 巧みに体を預けてペペのファウルを誘い、先制点につながるFKを獲得した前半19分のポストプレー。セルヒオ・ラモスとペペの間に生じたスペースに抜け出し、ダニエウ・アウベスのロングフィードを受け素早くゴール左隅に流し込んだ後半11分の決勝点。

「このために高い金を払って彼を獲得したんだ」

 試合後ルイス・エンリケはうれしそうに言っていたが、いずれもチームとして攻撃の糸口を見いだせず、相手ゴールに近づくことすらままならなかった時間帯に流れを一変させた2つのプレーは、確かに8100万ユーロ(約105億円)もの移籍金がかかるストライカーでなければできない芸当だった。

 バルサでの公式戦デビューを果たした前回のクラシコ(1−3)でも、スアレスはシンプルなポストプレーでボールをさばきながら中盤のパスワークに加わり、センターFWにポジションを移した後はラモスとペペとの駆け引きを繰り返すなど、非常に質の高いプレーを見せていた。ただ4カ月のブランクがあった当時はまだ90分間戦えるコンディションになく、2点差を付けられた後半半ばにピッチを退いている。また当時はまだ新入りらしく、自らの突破やシュートより周囲に合わせるプレーを強く意識していた。

 あれから5カ月、試合を重ねるごとにストライカーとしての本能を取り戻してきた彼は、今では周囲を使う時と、自分で勝負する時の判断が自然にできるようになった。それがトップレベルのセンターバックを見事に出し抜いた2つのプレーにつながったのだ。

「今のところ、これがバルサで決めた最も重要なゴールだ」

 試合後のコメントにもある通り、今後彼はもっともっと重要なゴールを決めていくことだろう。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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