「メイクの力」でスポーツをもっと楽しく 体育大出身のヘアーメイクアーティスト
化粧品を買うだけで上手になるということはありません。メイクはテクニック。体に動きと手つきを覚えさせていくという意味では、メイクもスポーツと同じです。1回ではできないですが、毎日やれば「あ、ここか!」というところが見つかります。
「新作のメイクアイテムを買ったから明日から別人」……と思いたくなりますが、そうではなく、自分にとっての、注力をする場所を知る、無駄なことをやめる、やるべき事を知ることが大切なのです。
――メイクレッスンを受けた方に、どんな気持ちで帰ってもらいたいですか?
基本の技術をしっかりお伝えするのはもちろんですが、プラスアルファで感動する技術を伝えたいですね。それは聞いた事があるものではなくて、“目からうろこ”の技でなくてはいけないと思っています。
ビューラーだって使い方次第で劇的に変わりますから。レッスン後、受講者が見違えるようにキラキラして帰っていかれるのを見ると、変わるきっかけを作れているのかなと思います。おこがましいのですが。
でもきっと変われる、明るくなります。カウンセラーではないのでそういう事は直接言いませんが、メイク技術の提供だけで人の変化はあると思っています。メイクの力です。
メイクは仕事であり趣味!? 「メイクの事を考えない時間があった方がいいんでしょうけど、すぐに見ちゃう」 【スポーツナビDo】
体育大出身 メイクの世界への方向転換
していませんでした! 体育の短大で教職免許は取ったんですが、競技についてはアスリートばかりが集まっているので、レベルが違って全然ついていけなかったんです。体育だけではやれないことに気付いて、接客業が楽しそうだなと思って化粧品メーカーを受けました。
――接客業に興味を持ったことがきっかけだった?
そうですね。でも新卒の研修制度で基本から教えてもらっているうちに、これは面白いなと思うようになっていきました。
最初はデパートで販売をやっていましたが、だんだんと物を売るというよりも、ブランドの縛りをなくして、純粋に美容や化粧品を自由に扱える仕事に興味を持ち始めました。そんなときにヘアメイクという仕事を知り、会社を辞めてイチから出直しました。
――たまたまたどり着いたヘアメイクの世界が、自分の軸になっていったんですね?
そうですね。今でこそスポーツメイクを自分の強みとしていますが、むしろ最初の頃は、運動に取り組んでいた自分の過去を消したかった。美容の世界で生きていくなかで、自分はアウトローでバックボーンがないような気持ちでいました。何でもっと早く若いうちから美容に取り掛からなかったんだろうとか。
メイクと同じで“チャームポイント”を生かすことが本当は大事だったのに、自分に自信がない部分をコンプレックスにしてしまっていたんでしょうね。
そんな時、ずっと私が仲良くしている先輩に、「常に自分自身を分析、研究をしていれば、はじきとばされることもない」と言われてハッとしました。たとえ基本のルートにのってこなかったとしても、自分がヘアメイクとして仕事をしていくために、自分にできること、伝えたいことを研究していかなければと思ったのです。
さらに経験を重ねてキャリアアップする中で、目線が変わって視野が広くなったのかもしれません。やり方次第で何とでもなると今は思っています。コンプレックスにさえ感じていた運動をしてきた自分と、メイクの世界も自然とつながってきたんです。
――みなさんに教えている“目からウロコ”の技術も、研究結果のひとつですか?
そうですね。でも教えるために考えているというよりも、興味のあることをいつも考えていてそれを教えている。趣味を広げているだけなんですよね(笑)。それでこんなに喜んでもらえるのはありがたいことです。
プロ相手に比べたら、知識も技術も違うので一般の方に教えるのは難しい部分もあります。でもやっぱり喜んでもらえる。自分の技術が誰かのためになっていると思うと、とてもうれしくなります。
“何か素敵”が時代のトレンド
ランニングとルーシーダットンというタイ式ヨガをやっています。ランニングはちょうど5年くらいかな? 働くための体の調整が主な目的ですが、気軽な大会は出ます。“旅ラン”的に食べ物や旅の楽しみをプラスして。“食”が付いてきちゃうからダイエットにはならないけど、走ってから食べている方がちょっと許されている気がします(笑)。
――10代の頃はメイクに興味がなかったとか。初めて自分で買ったメイクアイテムは覚えていますか?
安室(奈美恵)ちゃんブームで肌を黒くしていた時期だったので、M・A・C(マック)の色が濃い目なファンデーションだった気がします。へちま化粧水を塗って、下地もつけずにファンデーションをつけていたなぁ。安室ちゃんみたいになりたいなと思っていましたね(笑)。
――憧れ像はあったんですね?
女性ってそういうのみんなありますよね。あの子みたいになりたいとか。もしかしたら、そういうのが美意識の芽生えなのかもしれませんね。
――長井さんが素敵だなと思う人はどんな人ですか?
何が際立っているわけではないんだけど、“なんか素敵”と言うのが今一番の褒め言葉であり、時代のトレンド、好感度だと思います。
メイクレッスンを受けて、次の日から「すごく変わったね」って言われたりするのは、今の時代には合っていないのではないかなと思います。全箇所にメイクの技術を施しながらも「素肌がきれいな人ね」って言わせるようなメイク。レッスンではそういうメイクを伝えていきたいと思っています。
(取材・文:小川麻由子/スポーツナビ)
長井かおり プロフィール
雑誌、広告、映像など幅広いジャンルで活動するヘアーメイクアップアーティストの長井かおりさん 【長井かおり】