欧州代表が日本でつかんだ確かな手応え 自信を確信に変えた2日間

田中亮多

試合を支配した欧州代表

侍ジャパンと互角、あるいはそれ以上の戦いを見せた欧州代表。自らの実力に確信を持つに十分な2試合となった 【Getty Images】

 相手をよく知らぬまま、一発勝負を戦うことの怖さ。3月10日、11日ほど、日本の野球ファンがそれを実感した日はないだろう。

 2日間にわたって東京ドームで開催された野球日本代表「侍ジャパン」と欧州代表の強化試合は、多くのファンやメディア関係者にとって全く予想外の結果になったのではないか。日本は第1戦こそ、終盤の逆転劇で4対3と勝利したが、第2戦はユレンデル・デカスター(オランダ)の3ランなどもあって6対2で欧州代表に完敗。第1戦にしても欧州代表の先発ロブ・コルデマンス(同)らの投球術に翻弄(ほんろう)され、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)世界ランキング1位の貫録を見せつけるには至らなかった。対戦結果こそ、1勝1敗ではあったが、この2試合を支配していたのは、むしろ戦前は大敗が予想されていた欧州代表の方だったと思われる。

「俺たちでも十分日本と戦える」と証明できた

 侍ジャパン常設化で、野球でも「代表戦」が定期的に開催され始めてきた。だが、しばしばファンや関係者は世界との「距離感」を見誤りがちではないだろうか。現在でこそ、アジアのライバルとして見なされている韓国や台湾でさえ、ほんの一昔前までの日本側の認識は「圧倒的格下」に過ぎなかったように思う。その地位が変わったのはわずかこの10年足らずだろう。

 今回の欧州代表にしても、おそらく大多数の人が同様の見立てを持っていたことだろう。しかし、実際には、彼らは無名ではあれど、弱者ではなかった。日欧両球界を隔てるカーテンが開いた時、彼らとの距離はわれわれの認識よりもずっと近づいていたのだ。

 それは、欧州代表の選手たちの実感でもある。2試合とも中軸を任され、第2戦では4番としてダメ押し犠飛を放ったカリアン・サムス(オランダ)は、惜しくも逆転を許した第1戦についてこう語っている。

「(第1戦は)残念ながら最後に崩れてしまったが、非常にいい試合ができたと思う。俺たちのチームには今回、大リーガーはおろか、現役のマイナーリーガーさえいなかった。選手としてより多くの経験を積んでいる彼らがいれば、チームとしてはもちろん頼もしかっただろう。でも、欧州の国内組中心の俺たちでも十分日本と戦える。それを今回、証明できたことは大きな収穫だと思うよ」

ヨーロッパ「代表」という特別な意味

 サムスやコルデマンス、デカスターといったオランダ代表メンバーを中核としつつも、欧州各地から選抜チームとして呼び集められた欧州代表。正式なナショナルチームではないが、それでも選手たちにとってヨーロッパという「大陸」を代表して戦うことには特別な意味があったようだ。

「とてもユニークで、素晴らしいと思う。ヨーロッパ最高の選手たちと一緒に、同じユニホームを着て戦うなんて、人生初めての経験だからね。次にまた日本とやれるなら、欧州代表とオランダ代表、どちらとして戦いたいかって? とても良い質問だな(笑)。自分の国のために戦うことにも大きな意味があるし、どちらか1つなんて選べないね」(サムス)

 欧州代表メンバーの中には今季の所属先がまだ決まっておらず、この2試合を「就活」の場と位置付けていた選手も少なからずいた。「この試合に勝って自分たちの人生を変えるんだ」という熱いコメントを残したサムス自身もその1人だ。現時点では契約がオファーされたという情報は耳にしていないが、自分たちも日本と同じレベルで野球ができるという自信を確信に変えられたことは、今回の彼らにとって何より大きなものだったはずだ。

 自らのプレーに対する確かな手応えと、戦前にはほとんど得ることがなかったファンからの多大なリスペクト。欧州代表の選手たちがこの春、極東の地でつかんだものは目には見えずとも、とても大きかったように思う。彼らがこの国に残していった深い爪痕が歴史の転換点となり、国際野球界における1つの伝説として末永く語り継がれることを心から願う。
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著者プロフィール

1988年1月10日生まれ、千葉県出身。幼少期に経験した約5年間のイギリス生活を通じて、欧州文化への親しみを深める。帰国後の09年、第2回WBCでオランダがドミニカ共和国に2連勝したことに衝撃を受けたのをきっかけに、欧州の野球事情やニュース、国内リーグの結果について情報発信するブログ「欧州野球狂の詩」を開設。12年よりNPO法人国際野球支援団体ベースボールブリッジ代表。野球の世界的発展を多角的にサポートし続けている。

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